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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2012年11月22日 No.3110 「米国内外政の展望」 -久保・東京大学大学院法学政治学研究科教授が常任幹事会で講演

経団連は7日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、東京大学大学院法学政治学研究科の久保文明教授から、前日の米国大統領選挙の開票速報の分析と今後の米国内外政の見通しを聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 米国大統領選挙の分析

オバマ大統領が優位を得たのは、景気刺激策の推進、健康保険改革などの成果により、今回の投票者の38%を占める民主党支持層の92%から支持を得ていることが大きな要因である。女性、若年層、ヒスパニックや黒人などマイノリティーの支持も高い。

一方で、苦戦の原因は、景気回復の遅れである。10月の失業率は7.9%である。「今回の経済的な困難は誰の責任か」という出口調査の設問に対して、40%が「オバマ大統領に責任がある」と回答している。

オバマ大統領は、実績だけでは再選が危ういので、「オバマの米国」をとるか、「ロムニーの米国」をとるかの米国の将来ビジョンの戦いに持ち込み、共和党を超富裕者へのわずかの増税にも反対する政党と定義し、そのメッセージを浸透させた。その結果、世論調査によると、米国民の60%からオバマ大統領の富裕者増税ストラテジーについて支持が得られている。

■ オバマ政権の政策

オバマ大統領の転機は、2010年11月の中間選挙である。中間選挙で民主党が大敗し、下院の多数党の座を共和党に奪われたことにより、オバマ大統領は、民主党らしい政策を実現できる可能性が完全に封じ込められ、民主党の主張する大型景気刺激策を実行できなくなった。オバマ大統領は、中間選挙後、下院共和党とさまざまな交渉を行い、高額所得者層に対する減税を含むブッシュ減税を丸のみして2年延長した。また、2011年の政府借入限度額引き上げ問題でも、共和党のティーパーティー系の議員が大幅な歳出削減策を要求し、オバマ大統領も一方的に譲歩せざるを得なかった。その大幅な歳出削減策が、来年1月から10年間行われる1.2兆ドルの強制一律削減である。

ティーパーティー系の議員は、ワシントンに取り込まれないことを公約して当選してきており、妥協が許されない。下院共和党との交渉を通じて、オバマ大統領は、共和党の非妥協的な性格を悟り、ロムニー候補を徹底的に批判するなど、何が何でも再選を勝ち取る姿勢で今回の大統領選挙に臨むようになった。

外交政策について、オバマ大統領は就任当初、柔軟な対応をとっていたが、態度をかなり硬化させている。イランに対しては、ブッシュ政権2期目より厳しい制裁を課している。対中国政策についても、南シナ海での領土紛争を通じて、対中認識を変えており、米国は、航行の自由の権利を主張し続けて断固として譲らなくなった。

■ 選挙後の展開

オバマ大統領が再選しても、下院の多数党は共和党であるため、民主党らしい政策を行える余地はない。オバマ大統領が再選を狙うのは、ブッシュ減税の丸のみを避けること、「健康保険改革の撤廃」を阻止すること、民主党の主張する大型景気刺激策が正しいことを有権者に示すためである。

直近の問題である「財政の崖」について、オバマ大統領は、高額所得者に対する減税を拒否するという強いメッセージを発している。一方、共和党の現職議員のほとんどは、増税法案に賛成しないという誓いを立てている。そのため、オバマ大統領、共和党の両者は容易に妥協できずに膠着状態が続くものと思われる。

【総務本部】

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