Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年2月7日 No.3118  ベトナムの労使関係と労務管理の具体的対応策を聞く -雇用委員会国際労働部会

経団連は1月28日、東京・大手町の経団連会館で雇用委員会国際労働部会(谷川和生部会長)を開催した。当日は、会川アジアビジネス研究所の会川精司代表取締役から、ベトナムの労使関係の課題と労務管理の具体的対応策を聞き、意見交換を行った。
講演の概要は次のとおり。

■ 戦略的パートナーとしてのベトナム

90年代までのベトナムは、屈強なベトコン、貧困、ボートピープルなどネガティブなイメージが強かった。2000年ごろになると、ドイモイ政策(注)の成果もあって市場経済化が進展し、過去のイメージから大きく脱却。親日的、安全、清潔、おいしい「食」など日本にとって政治・経済上の戦略的パートナー国となっている。

(注)ドイモイ政策=国家管理のもと人民を豊かにし、文化的国家建設を目的にとられた政策。計画経済から市場経済への転換を図り、私企業や一部私有財産を認めた

■ 立法・行政の特徴

ベトナムは法制が未整備なうえに、その運用が不透明なため、裁量行政に陥りやすい。また、司法は判例法に基づかない。

■ 低廉で優秀な労働者

近隣諸国に比べ労務コストが低いうえに労働者は有能である。例えば中国は高い離職率・低い就業能力ゆえ、単能工による生産工程細分化、少品種大量生産が主流となる。他方、ベトナムは低い離職率・高い就業能力ゆえ、多能工化によるセル生産方式導入により、多品種少量生産・迅速な製品切り替えが可能である。

■ 労使問題の背景

2000年から05年までベトナム政府は、企業誘致強化のため外資系企業のベトナム人従業員の最低賃金を6年間凍結。90年代初頭からそれまでの間、日系企業の労働争議は皆無であった。

その後、06年に外資系企業の最低賃金を一挙に45%引き上げ、09年までの4年間で90%引き上げた。これは、経済のグローバリゼーション、ベトナムのWTO加盟、市場経済化の加速、インフレの高進、労働者の自己表現意欲の反映を受けてとられた措置である。

06年に南部のドンナイ省を中心に日系企業の労働争議・違法ストライキが発生、翌07年には南部全域に広がり、08年にはベトナム北部にも拡大した。その後、09年のリーマンショックを契機とする世界不況が、外資系企業の雇用減退を招き、その結果、労働争議・違法ストライキが沈静化した。09年以降世界経済の回復・インフレ再高進の兆しがみられたものの、12年以降インフレが沈静化、不況による雇用減退のため転職も減少し、労働争議も減少している。

■ 労務・経営管理対策

企業内の取り組みとしては、第一に、とりわけ5月から施行予定の改定労働法の正確な理解による法令遵守が挙げられる。一例として、違法ストライキ抑止のため労働協約・就業規則見直しを進めるなどである。第二に、日ごろの労使間交流を通じて非公式な情報ネットワークを構築し、現場の不信・不満を払拭することである。第三に、グループ単位での競争の導入など現場の意識改革を進めることである。第四に、大卒者・中間管理職エリート層の技能を、高卒者・ワーカークラスへシフトさせ、若手スタッフの上位職登用を進めることである。

対外的組織に対する取り組みとしては、労使紛争・災害発生・暴動事件に備え緊急対応策を策定することである。例えば平常時から一定の在庫を確保することや、複数の外注先・供給元の確保を図るなどである。現地の労使関係・労使問題に対する本社経営陣の理解を進め、緊急時の支援体制を確立して、現地経営者の信頼獲得を進めることも重要である。

企業・商工会・在外公館レベルでの情報交換・認識共有化を進め、健全な労使関係構築に対する地方行政の支援を獲得することも重要である。その一助とするため、経営者・企業の社会的貢献活動を通じて、地方行政・社会との信頼関係を構築することも有効である。それは現地従業員の経営者に対する尊敬や帰属意識の醸成にもつながる。

【国際協力本部】