Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年3月7日 No.3122  昼食講演会シリーズ<第19回> -「アベノミクスとは何か」
/内閣官房参与・静岡県立大学教授 本田悦朗氏

経団連は2月13日、東京・大手町の経団連会館で第19回昼食講演会を開催し、170名の参加のもと、内閣官房参与の本田悦朗静岡県立大学教授から「アベノミクスとは何か―成長による富の創出と安倍新政権の果たすべき役割」と題した講演を聞いた。
講演の概要は次のとおり。

■ デフレの原因

バブル崩壊以降、日本経済は長期のデフレに陥っているが、この正体を人口減少による生産能力の減退や労働生産性の低下といった「構造問題」による供給力不足、すなわち「成長期待の低下」に求める見方がある。しかし、供給制約があるのであれば、少子高齢化が進んでいるドイツやイタリアなどの例を見ても、むしろインフレになる方が自然である。デフレとは継続的に物価が下落し続けることである。そして、物価が下がり続けるであろうという「デフレ期待」を定着させてしまった、バブル崩壊直後からの金融緩和の不十分さこそが長期にわたるデフレの原因である。

通貨には支払い決済機能と価値保存機能とがある。物価が下落し続けると予想すれば、お金は貯めておいて後で使おうと価値保存を考えるのは当然である。しかし通貨の価値保存機能が高まりすぎると、通貨の価値が上昇して超円高になり、企業は債務返済と内部留保の蓄積をしようとする。デフレ下ではこれは正常な行動であって、市場ではこの行動を止めることはできない。市場の外から特別な力を加えなければ、デフレの悪循環を断ち切ることはできない。

昨年2月14日に日本銀行が物価安定の「目途」を示し、予想インフレ率を上昇させる契機をつくった。しかし「民間部門の資金需要があるときのみ資金を供給する」という日銀のスタンスはデフレ脱却には不十分である。

■ 当面の最大の課題は金融政策

安倍首相は就任後、金融政策、財政政策、成長政策の「3本の矢」、アベノミクスと呼ばれる経済政策を打ち出した。この「3本の矢」のうち最も優先度が高く最初に取り組むべき課題は、デフレからの脱却、すなわち大胆な金融政策である。デフレから脱却しなければ実質金利高、円高によって財政政策の効果は減殺されてしまうし、全体の所得のパイを大きくしておかなければ、成長政策に対して既得権者の反発を招いてしまう。

安倍政権は2%のインフレ率の達成を掲げ、1月22日に日銀と「共同文書」を取りまとめた。「国債金利が暴騰する」「ハイパーインフレを招く」といった批判もあるが、金利の暴騰などが起こらないようにするために目標を設定するのであり、一定水準を一定期間超えたら引き締めるということである。また、第一次世界大戦直後のドイツのようなハイパーインフレは想定できない。日本のライバル国から「円安誘導ではないか」といった懸念が示されているが、世界の趨勢は中長期的にほぼインフレ率2%であり、それを目指して金融政策を実施しようとしているだけであり、円安はその結果にすぎない。

■ 日銀法改正の必要性

インフレの数値目標の設定は経済政策全体との整合性の観点から政府が行う。日銀は、目標達成のための手段の選択について独立性を発揮し、目標達成について説明責任を負うべきである。そして、強いコミットがあればこそ、市場は日銀を信用し、「期待の転換」が起こる。日銀のコミットメントの強化に向けて、日銀の目的・独立性・説明責任を明らかにする、日銀法の改正をするべきである。

■ 財政政策、成長政策の効果

私は、金融政策だけでデフレから脱却できると考えているが、それを支援するものとして財政政策も重要である。しかし、現在の公共投資の最重要テーマは、「次世代にどのような国土を残すべきか」といった観点から行われる国土強靭化やインフラ・メンテナンスであり、景気回復のための乗数効果や民間投資誘発効果は、いわば副次的なものであると考えている。また、財政の持続可能性確保のための規律も必要となる。民間投資を呼び込む成長戦略も重要だが、これは供給側の政策であり、本来需要側の政策であるデフレ脱却についての即効性には欠ける。

安倍政権の誕生は、日本を取り戻し、誇りある国家をつくっていく千載一遇の機会である。早期にデフレからの脱却を果たし、努力が正当に報われる経済を実現し、国民が希望を持てる経済社会をつくっていくべきである。

【総務本部】

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