Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年3月21日 No.3124  「日本経済の競争力と成長力の強化に向けて」 -日本銀行・白川総裁が常任幹事会で講演

講演する白川総裁

経団連は2月28日、東京・大手町の経団連会館で開催した常任幹事会で、日本銀行の白川方明総裁(当時)から、「日本経済の競争力と成長力の強化に向けて」と題する講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 経済政策の目的とは

本日は、私にとって日本銀行総裁最後の講演になる。マクロ経済的な視点、企業行動の視点、経済政策の視点を意識しながら、お話ししたい。

経済政策の目的は、最終的には国民一人ひとりの生活水準の向上を図ること、近似的には実質GDPを高めることにあるが、日本経済が現在置かれた状況に則して考えると、四つの視点が重要である。それは、(1)高齢化に伴う労働力人口減少の影響を考慮し、人口1人当たりという視点でも考えること(2)経済のグローバル化の進行を踏まえ、実質GDPだけでなく、実質GNIもみていくこと(3)国民が「デフレ脱却」という言葉で望んでいる姿の実相は、経済がバランスよく改善し、その結果として物価の上昇が実現する状態であること(4)「成長の果実」をどう分配していくかも、重要な要素の一つであること――である。

■ 競争力・成長力強化の必要性と基本的方向性

日本の競争力、成長力強化のためには、就業者数と付加価値生産性の両方に働きかけていく必要がある。その際、幅広い主体の取り組みが不可欠だが、何と言っても主役は民間企業である。現在、企業は家計と並んで貯蓄超過部門であり、これは2000年代に入って主要先進国に共通してみられる現象である。余剰資金の使い道は、国内外の実物投資や金融投資、従業員への還元、株主への還元の三つの選択肢しかない。このいずれかのルートを通じて、増加した流動性に何らかの変化をもたらさない限り、経済への好影響は生まれない。その意味で、企業経営を取り巻く環境を変え、インセンティブを変えていくことが非常に重要である。

取り組みの基本的方向性は三つある。第一に、増大する海外需要を海外進出により取り込むこと。対外直接投資や現地生産にバランスよく取り組む必要がある。第二に、急速な高齢化進行に合わせた経済・社会の仕組みの見直し。供給面では、女性や高齢者の労働参加率引き上げ、需要面では、医療・介護・住宅分野などで、適切な制度設計や規制改革を図り潜在的需要を開花させる必要がある。第三に、需要構造の変化に応じて、企業・産業・地域間で、労働や資本などの資源を円滑に移動させ、新陳代謝を図ることである。

そして、こうした取り組みを可能にする環境整備が必要だ。具体的には、(1)企業がチャレンジ可能な領域を広げるための思い切った規制改革や労働市場の制度整備(2)コーポレート・ガバナンスの適切な機能(3)新たなチャレンジを応援する価値観の社会全体での共有――が必要である。

■ 日本銀行の金融政策運営

ご承知のように、日本銀行は1月に、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主体の取り組みが進展するという認識に立ったうえで、金融政策の目的である物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とすることを決定した。日本銀行は、経済が持続的にバランス良く成長するようなかたちでの物価安定を目指すという金融政策の運営理念のもと、物価安定の目標をできるだけ早期に達成するよう、強力な金融緩和を推進する。

この間、政府の取り組みも、次の理由から重要だ。規制・制度改革などの政策を総動員し成長力強化への取り組みが進展すれば、緩和的な金融環境がより広範に活用される。また、強力な金融緩和の推進には、財政運営に対する信認確保が欠かせない。日本銀行による国債買入が「財政ファイナンス」と受け取られると、長期金利が上昇するおそれがある。その意味で、政府にも日本銀行にも規律が求められる。

日本銀行としては、さまざまな意見に耳を傾けたうえで、自らの責任と判断において適切な金融政策運営に努めていく。

【総務本部】