Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年4月4日 No.3126  「安倍内閣のマクロ政策の評価と、その中での財政健全化の進め方」をテーマに説明聞く -中里・上智大学経済学部教授から/財政制度委員会企画部会

経団連の財政制度委員会企画部会(松井伸介部会長)は3月22日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、上智大学経済学部の中里透准教授から、「安倍内閣のマクロ政策の評価と、その中での財政健全化の進め方」をテーマに説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。

1.短期は財政出動、中長期は財政健全化

当面の政策課題は、デフレ脱却、経済成長の促進、財政健全化の三つである。

現在の「流動性のわな」に近い状態のもとでデフレから脱却するには、オーソドックスな経済分析の枠組みからすると、「大胆な金融緩和」だけでなく、短期的には財政出動を組み合わせて対応することが必要になる。その観点から、老朽化したインフラの更新を前倒しして実施することは合理性がある。ただし、新規の公共投資に関しては厳しい財政状況を考慮し、十分な精査を求めたい。消費税を引き上げても、歳出が自然体で増加すれば、財政収支は十分に改善しない見込みであることも踏まえ、中期的には増税のみに依存せず、歳出抑制により財政健全化を進めていかなくてはならない。

2.社会保障・税一体改革の実行に向けた課題

今回の改革では、社会保障の安定財源の確保と財政健全化の同時達成を目指し、消費税率を5%引き上げ、その税収を社会保障4経費(年金、医療、介護、子育て)に充当することとされた。この目的に照らせば、消費税の増収分が社会保障以外の用途へ転用されることなく社会保障の充実と財政収支の改善に充てられるかを、十分注視していく必要がある。

2段階に分けて実施される消費税率の引き上げについては、第1段階である2014年4月の実施に関する判断が重要となる。まず、景気動向の見極めに際しては、2013年4-6月期のGDP成長率だけでなく、他のさまざまな経済指標を総合的に勘案する必要がある。また、デフレ脱却が最優先課題とされるなか、消費税率引き上げは景気を下押しする要因になることに留意する必要がある一方、先送りした場合には、国債市場が不安定化するリスクがあることも勘案して、タイミングの慎重な見極めが求められる。

3.今後の財政健全化の進め方

民主党政権下では、財政運営戦略と中期財政フレームに沿って財政運営がなされてきた。本来であれば、消費税の引き上げまでに、歳出改革の具体的な工程表を策定することが望ましいが、政治日程等を考慮すると難しいかもしれない。

とはいえ安倍内閣は、少なくとも今夏までに新たな財政健全化目標を策定し、政府の財政健全化に対するコミットメントを明確にすべきである。財政健全化に対するコミットメントは、政策当局を縛ることになり、機動的な財政運営を制約する面もあるが、他方で金融政策におけるコミットメントと同様に、将来の政策運営や経済状況に対する家計や企業の「期待」の安定化、政府の財政運営に対する信認の確保を可能にし、それを通じて財政再建と経済成長の両立に資する効果も期待できる。

歳出改革においては社会保障と地方財政がその主要項目となるが、社会保障については年金給付の抑制や年金課税の強化、地方財政については地方交付税の加算措置の見直しを行うべきである。歳出改革を進めていく際には、橋本内閣の財政構造改革や小泉内閣の歳出・歳入一体改革の進め方も参照し、政府・与党内の合意形成のプロセスを重視して、改革を実効性のあるものとすることが重要である。

【経済政策本部】