Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年7月11日 No.3138  シンポジウム「持続可能で成長と両立する社会保障制度改革に向けて」を開催 -社会保障給付を聖域とせず改革断行が必要

開会あいさつをする斎藤副会長

経団連(米倉弘昌会長)は3日、東京・大手町の経団連会館でシンポジウム「持続可能で成長と両立する社会保障制度改革に向けて」を開催した。当日は、経団連会員代表者や経済広報センターの公聴会員など、約170名が来場した。

まず、主催者を代表して、斎藤勝利副会長・社会保障委員長から開会あいさつがあった。このなかで斎藤副会長は、「『社会保障制度改革国民会議』の設置期限まで残り1カ月あまり。この間、経団連は国民会議をはじめ、さまざまな機会をとらえ、社会保障給付の効率化・重点化や、現役世代中心の負担構造の見直しを訴えてきた」とアピール。そのうえで、「政府には、これ以上問題を先送りすることなく、強い危機感と覚悟を持って、改革を断行することを求めていく」との決意を述べた。

続く第一部では、岩本康志・東京大学大学院経済学研究科教授による基調講演「経済成長と両立する社会保障制度改革」が、第二部では「わが国の社会保障制度のあるべき姿」をテーマにパネルディスカッションが行われた。
岩本教授の講演の概要は次のとおり。

講演する岩本教授

(1)わが国の社会保障制度を取り巻く現状

 厚生労働省の直近の試算によれば、2012年度の社会保障給付費の対名目GDP比は22.8%となり、5年前に試算した数値(17.7%)を大きく上回っている。これは、給付費は予測からあまり変化していないにもかかわらず、名目GDPが大きく減少したため、保険財政が実質的に厳しくなっていることを意味する。

急速に進行する少子高齢化により、65歳以上人口の総人口に占める割合は、足もとの20%強から、2060年には40%程度まで上昇する。社会保険料や税を負担する現役世代は減少する一方、給付を受ける高齢者世代が増加するため、今後の社会保障制度は一層深刻な事態に直面する。

(2)財政健全化への当面の課題

昨年8月の内閣府の試算によれば、消費税率の引き上げにより、基礎的財政収支の赤字は、2015年度に半減されることが見通されていた。ところが、年初に10兆円を超える大型補正予算を組んだため、赤字半減のシナリオが描きにくくなってきた。赤字半減目標の達成は、来年度および再来年度の予算編成で決着をつける必要がある。消費増税による増収分をばらまく余裕はなく、危機対応で肥大化した歳出の正常化をはじめとした大幅な歳出削減を原則とすべきである。

あわせて、社会保障給付費も聖域とせず、医療・介護・年金・子育て分野における給付の拡大を伴う改革は、あらためて精査していかなければならない。他方、物価の下落に応じた年金給付額や診療報酬等の調整は、本来やるべきだったことを実行するものあり、決して質の低下にはならない。

さらに、20年度の基礎的財政収支の黒字化に向け、歳出抑制のみならず、15年度以降のさらなる増税措置も検討する必要がある。

(3)待ったなしの社会保障制度改革

数年前に米国のGM(ゼネラル・モーターズ)が破綻した理由に、従業員OBへの年金や医療給付の負担で競争力を失ったことがあげられるが、将来の日本の社会保障制度でも、高齢者の給付を支える現役世代の負担が増えていく。その負担の上昇を抑える改革を先送りにすれば、わが国の国際競争力は失われるし、競争力を維持しようとすれば、国民の手取りの所得を減らさなければならない。日本は、いまその改革に着手するか、先送りするかの選択を迫られている。将来の人口動態を見据え、先手を打っていくことが、長い目でみた日本の成長につながる。

(第二部のパネルディスカッションの模様は次号掲載

【経済政策本部】