Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年9月26日 No.3147  スマートウェルネスシティ構想/歩くことを通じて健康長寿社会をつくる -筑波大学・久野教授が取り組みについて講演/高齢社会対応部会

経団連は12日、東京・大手町の経団連会館で、都市・地域政策委員会・住宅政策委員会共管の高齢社会対応部会(渡邊大樹部会長)を開催した。筑波大学大学院人間総合科学研究科の久野譜也教授から、健康長寿社会の実現に向けた「スマートウェルネスシティ構想」の取り組みについて講演を聞くとともに、意見交換を行った。
講演の概要は次のとおり。

健康づくりにかかる施策をめぐっては、これまで個人の健康になぜ公費を投入する必要があるのかと疑問を呈されることが多かった。しかし、今や個人の健康状態が社会保障制度をはじめ国全体に大きな影響を及ぼし、健康づくりは社会全体からの要請となっている。個人の健康づくりが社会貢献につながる。言い換えれば、個人は社会全体のために健康でいる責任がある。

他方、データからは個人の意識改革だけでは健康づくりが広がらないことが読みとれる。約5千人を対象とした調査では、運動未実施と実施の割合は7対3と未実施群が圧倒的に大きく、さらに未実施者の7割が健康的な生活を送るための情報収集さえしていない。健康は大事だとわかっていながら行動を変容できないのではなく、そもそも健康づくりの価値自体が認知されていない。

こうした状況では、特定健康診査(いわゆるメタボ健診)のような従来からのハイリスク層に限定したアプローチだけではなく、集団全体のリスクの平均値を下げ、健康な人の絶対数を増やしていくといったポピュレーション・アプローチの具体化が求められる。その一つが、歩くことを通じて健康をつくる「スマートウェルネスシティ構想」である。

現在、地方を中心に多くの都市で中心市街地から郊外へ買い物拠点が移動したが、この生活スタイルは車に過度に依存し、歩く機会が減少するため、生活習慣病の発症リスクを高めてしまう。

健康につながるまちづくりのためには、まちのコンパクト化と中心市街地の活性化、さらには公共交通網の再整備を進め、歩くことを中心に据えることが重要である。歩きやすく、自然と歩かされてしまうまちづくりが実現できれば、健康に無関心な層に対しても無意識のうちに健康づくりを促していくことができる。

また、健康長寿の実現に向けては、高齢者の社会への参加が非常に重要である。健康な状態は、医学的な観点や生活機能の維持だけではなく、社会への積極的な参加があって初めて得られるものである。特に、ボランティアを含め、どのようなかたちであっても仕事に就いていることが望ましい。これまで健康施策といえば、医学や食事、運動にかかるものがほとんどであったが、社会のあり方そのものが問われるようになっている。

そして、高齢者の社会参加を促すためのカギがソーシャル・キャピタルの充実である。ソーシャル・キャピタルとは、人と人とのつながりであり、偶然の出会いの積み重ねである。昨今、とりわけ都市部では、地域のコミュニティーが失われつつある。これを再生することで、ソーシャル・キャピタルが高まれば、高齢者をはじめ住民が家の外に出て、地域社会へ積極的に参加するようになるだろう。

健康政策は多岐にわたっており、歩行や社会参加をただ促すだけではなく、食事、運動、教育、交通、住環境、住まいなどと一体的に、総合政策として推進しなければならない。スマートウェルネスシティ構想では、参加自治体との連携のもと、エビデンスに基づく「政策化」と「社会実験」を継続して実施し、「歩いてしまう、歩き続けてしまう」まちづくりを通じて、住民が健康で元気に幸せに暮らせる新しい都市モデルを実現していく。

【産業政策本部】