Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年11月7日 No.3153  未来都市モデルプロジェクト・シンポジウム「日本再興への道」開催 -五つのプロジェクトの進捗状況や経済成長・地域活性化をテーマに意見交換

経団連と経済広報センターは10月29日、東京・大手町の経団連会館で、未来都市モデルプロジェクト・シンポジウム「日本再興への道」を開催した。経済界のみならず、政府、地方自治体、在京大使館など約500名の参加を得て、活発な意見交換が行われた。

経団連では、全国11の都市・地域で「未来都市モデルプロジェクト」を推進している。現在、プロジェクトが進む全国の都市・地域で、環境・エネルギー、医療、交通インフラ、農業等の分野にかかる先端技術を用いた実証実験が行われており、高齢化やエネルギー問題、農業の活性化などの社会的な課題の解決策や産業システムの変革、さらには地域の活性化へとつながる成果が芽生えつつある。

今回のシンポジウムは、これらの成果をはじめプロジェクトへの一層の理解を深めるために開催したもの。当日は、伊藤元重東京大学教授の基調講演に続き、プロジェクト責任者によるパネルディスカッションを行った。シンポジウムの概要は次のとおり。

あいさつする岩沙審議員会副議長

■ 未来都市モデルプロジェクトは成長戦略の重要な柱

冒頭、岩沙弘道審議員会副議長・経済広報センター副会長があいさつし、「わが国経済を本格的な再生へとつなげていくためには、成長戦略の着実かつ迅速な実行がなにより重要である。企業には成長の担い手として積極果敢に事業を展開するとともに、イノベーションを推進し、新たな需要を創造していくことが求められている。民間主導の成長モデルとして、都市を舞台にイノベーション創出を目指す『未来都市モデルプロジェクト』は成長戦略の重要な柱になる」と述べ、プロジェクトの意義を強調した。

講演する伊藤教授

■ 都市と成長戦略

続いて、東京大学の伊藤元重教授が「都市と成長戦略」をテーマに基調講演を行った。伊藤教授は、「20年あまり続いたデフレのため、日本経済は変化のスピードが遅くなってしまった。しかし、安倍政権はTPP交渉への参加や農業改革、電力改革など切れ目なく有効な政策を打ち出している。企業にはこのスピードの変化に合わせて、成長に向けた投資を拡大していくことが求められる」など、成長戦略における企業の役割について述べるとともに、「日本のさまざまな都市が成功モデルの構築に取り組んでいる。広島の呉市はICTを活用して医療費削減を成し遂げた。今後はこうした成功事例を横展開していくことが必要」「日本の地方都市は東京の活力だけでなく、香港やソウルなどアジアの活力を活用すべき」と経済成長における都市の役割について、具体例を交えながらその重要性を主張した。

パネルディスカッション

シンポジウムの後半では、11のプロジェクトのうち、福島、柏の葉、西条、北九州、沖縄の五つのプロジェクトについて、進捗状況を報告するとともに、プロジェクトを起爆剤とした経済成長や地域活性化、また、今後の展望や中長期的な課題などをテーマにパネルディスカッションを行った。

議論を通じて、未来都市モデルプロジェクトのさらなる推進に向けて、エネルギー、農業、医療などプロジェクトにかかる規制緩和の必要性が指摘されたほか、成功事例の国内外への展開や各プロジェクト間の連携によるシナジー効果の可能性について言及があった。

(1)北九州アジア戦略・環境拠点都市(北橋健治・北九州市長)

北九州スマートコミュニティ創造事業では、既存の産業リソースを活用したエネルギー利用の最適化を図るとともに、消費者が参加する新しいエネルギーシステムの構築に取り組んでおり、すでに20%のピークカットを実現した。また、インドネシアのスラバヤ市への省エネノウハウの輸出にも取り組んでいる。

(2)西条農業革新都市(西本麗・住友化学代表取締役常務執行役員)

多様な業種の企業、教育機関などが先進技術や資機材を持ち寄り、これらを組み合わせることで、農業分野の生産・流通にかかる革新的な効率化方策の実証を行っている。世界的には人口が増え、農業にとってはチャンスである。引き続き農地の規模拡大と集約化、高付加価値化、人材育成に取り組んでいく。

(3)福島医療ケアサービス都市(篠原弘道・日本電信電話常務取締役)

檜枝岐村は全国一の過疎の村で人口密度は東京23区の9000分の1である。専門医がいる医療機関まで片道2時間を要していたが、ICTを活用した遠隔サポート診療を実現し、村民の健康増進に貢献している。今後は診療報酬等の遠隔診療に関する制度的課題を解決し、全国の過疎の村への横展開を目指していく。

(4)沖縄物流拠点都市(岡田晃・全日本空輸常務取締役執行役員)

沖縄は日本国内の地方都市、また、香港、ソウルなどアジアの主要都市との中心に位置し、20億人の巨大マーケットが対象になる。那覇空港をハブに、日本とアジアの主要市場を結び、農産物等を集荷翌日に配達することが可能となった。さらなる輸送ネットワークの拡充を目指していく。

(5)柏の葉キャンパスシティ(小野澤康夫・三井不動産常務執行役員)

柏の葉では、高齢化や低成長経済、環境問題、食糧問題などの社会的課題の解決を目指している。具体的には、低炭素コミュニティー、ICTによる健康管理の見える化、ベンチャー企業の育成、都市農業の高度化等に取り組んでいる。需要サイドである住民の声を踏まえたまちづくりを進めていく。

シンポジウムではプロジェクト責任者による
パネルディスカッションが行われた

【産業政策本部】