Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2013年12月5日 No.3157  今後の原子力政策のあり方<上> -新たな構築を迫られる原子力損害賠償・事業体制

経団連の21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎所長)は11月14日に、報告書「新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて」および提言「原子力事業環境・体制整備に向けて」を発表した。
次号から2回にわたり、取りまとめを行った澤昭裕・21世紀政策研究所研究主幹および竹内純子・同研究所原子力損害賠償・事業体制検討委員会副主査から、それぞれの内容について紹介をいただく。
今回は発表に至る経緯および概要について紹介する。

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2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下、福島事故)以降、わが国の原子力発電所のほとんどが停止し、エネルギー需給はひっ迫している。これまで原子力によってまかなっていた電力は、再生可能エネルギーや火力発電により補うしかないが、再生可能エネルギーはコストが高く、まだ総発電電力量の1%程度を担うにすぎない。火力発電はCO2排出量増の課題に加え、化石燃料の安定供給への不安、国富流出という問題点がある。原子力発電所の停止により、わが国のエネルギーミックスは非常に脆弱なものとなっている。

しかし、今回の報告書および提言は、原子力の必要性について議論するものではない。今後も原子力事業を政策として維持することを前提とした場合、どのような原子力災害補償制度が望ましいのか、どのような事業環境整備が必要であるのかを検討・提言したものである。

福島事故以降、原子力災害が大規模かつ広範囲に及ぶ場合、これまでの「原子力損害の賠償に関する法律(以下、原賠法)」は被災者救済制度として不十分であることが明らかとなり、また、本来間接有限責任を負うとされる株式会社が無限の賠償責任を負うことによる課題と、自由化議論の進展も相まって、原子力事業体制そのものについてトータル・ソリューションを描く必要がある。

このような問題意識を発端とし、森嶌昭夫・名古屋大学名誉教授を主査に迎え、法律の専門家を中心とした委員構成のもと、「原子力損害賠償・事業体制検討委員会」を立ち上げ、原子力損害賠償制度の歴史、現状の問題点等を整理し、今後のあり方を検討してきた。この検討内容をまとめたのが、報告書「新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて」である。

報告書は3部構成となっており、第1部は原子力事業の歴史、原子力賠償制度の制定経緯および諸外国の原子力損害賠償制度との比較について事実関係を中心にまとめた。第2部は福島事故により明らかになった現行原賠法の問題点と改正に向けた視座を整理した。第3部は新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて、「被害者の保護」と「原子力事業の健全な発達に資すること」を目的に原子力損害賠償制度における官民のリスク分担、救済手続きのあり方について提案した。

また、原子力事業を今後も維持するのであれば、どのような事業環境整備が必要かを別冊の提言「原子力事業環境・体制整備に向けて」にまとめた。賠償制度を含む原子力災害対策制度の新たな構成案と、発電事業およびバックエンド事業を含む原子力事業の維持・継続を可能にする環境をどのように整備していくべきか、さらに原子力事業における事故発生、規制強化、稼働率低下、ファイナンス等のさまざまなリスクを統合的にマネジメントしていく方策について提言している。

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次号では報告書「新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて」について詳しく紹介したい。


今後の原子力政策のあり方(全3回)

  1. 新たな構築を迫られる原子力損害賠償・事業体制
  2. 新たな原子力損害賠償制度の構築に向けて
  3. 原子力事業環境・体制整備に向けて