Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年1月30日 No.3163  日本企業の海外展開におけるリスク管理のあり方を聞く -経済外交委員会

経団連の経済外交委員会(川村隆委員長、大林剛郎共同委員長)は20日、東京・大手町の経団連会館で宮家邦彦外交政策研究所代表を来賓に迎え、日本企業の海外展開におけるリスク管理のあり方等について説明を聞いた。会合では大林共同委員長が座長を務め、約60名が出席した。宮家氏の説明概要は次のとおり。

■ 国家安全保障・危機管理・情報の概念

昨年のアルジェリアのテロ事件の後、「日本にも国家安全保障局を設置すべき」との議論が起こったが、最近でも国家安全保障(National Security)、危機管理(Crisis Management)、情報(Intelligence)の三つの概念が区別されていない議論がある。この事件は国家安全保障ではなく、危機管理の領域である。事件の際に情報が錯綜したとの批判があったが、不正確な情報しか入手できないなか、不完全な対処を余儀なくされる状況が危機管理であり、そのような状況で、いかに被害を少なくするかは内閣危機管理監の管轄である。他方、国家安全保障局は各省庁の情報を集約して、外交・安全保障上の重要な政策の企画調整を行う役割を担う。

■ 危機管理のあり方

このテロ事件を受けて設置された政府の有識者懇談会で私は座長を務めたが、平素からの官民の情報交換、企業自身による警備強化、リスク管理の専門家の養成等の重要性を指摘した。最大の課題は官民連携の継続である。同種の事件はいずれ再び起きると考え、記憶を風化させてはならない。
また、司令塔機能を担う官邸は危機に際し冷静でバランスの取れた最善の政治判断を下さなくてはならない。そのためには政治指導者に身体的に過度の負担をかけるべきではない。

■ 危機管理の具体例 ― ハリケーン・カトリーナの教訓

危機管理の具体例として、ハリケーン・カトリーナへの対応から得られた教訓を紹介したい。第一に初動対応がすべてを決める。真夜中・休暇中も言い訳にならない。事態の深刻さを直言できる部下が必要で、イエスマンは役に立たない。危機ではだれも助けてはくれない。第二に危機管理マニュアルは平時における頭の体操としては意味があるが、危機の際、最善な判断に必要なのは「常識」である。第三に広報は危機管理における最大の武器にも致命傷にもなり得る。「十分に対応できなかった」より「嘘をついた」「知らなかった」のダメージのほうが大きい。第四に政治は結果がすべてである。思考だけして失敗しない部下より、行動して失敗した部下を慰労すべきである。政治判断に迷うときは「普通の人の普通の感覚」を念頭に置くべきである。

■ 中東情勢の展望

パワーは目にみえないが、それがなくなるとわかる。力の空白が生じると、新たな勢力が侵入し紛争が生じる。2014年末にアフガニスタンから米国およびNATOの部隊が撤退すれば、アルカイダやタリバンの勢力が伸長するだろう。
また、イラクはペルシャ系王朝の支配下にあったという歴史的背景もあり、米軍撤退後はイランの影響力が高まっている。

【国際経済本部】