Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年3月27日 No.3171  21世紀政策研究所が第104回シンポジウム -「ビッグデータが私たちの医療・健康を変える」

研究報告を行う東京大学先端科学
技術研究センターの森川教授

21世紀政策研究所(米倉弘昌会長、森田富治郎所長)は12日、東京・大手町の経団連会館で第104回シンポジウム「ビッグデータが私たちの医療・健康を変える」を開催した。

同研究所では、研究プロジェクト「ビックデータビジネスが描く未来」を立ち上げ、医療・健康分野においてビックデータを利活用することによってもたらされる未来像、またその実現に向けての課題整理等を進めてきた。シンポジウムでは、これまでの研究成果の報告とパネルディスカッションが行われた。

■ 基調講演

まず、亀田隆明・亀田総合病院理事長が、世界に先駆けて電子カルテを導入した経験を踏まえ、「電子カルテを基盤とした社会システムデザイン」と題し基調講演を行った。亀田氏は、「本来医療情報は全国統一のデータベースとすべきところ、統一IDがなく、システムデザインの標準化が遅れていることから医療データ連携が進んでいない」と指摘。医療情報の共有・連携が実現できれば、医療の無駄が省かれ、質が向上し、国民皆保険制度も維持でき、わが国の医療制度は世界に冠たるものとなり得ると強調した。

■ 研究報告

続いて、同研究プロジェクトの研究主幹である森川博之・東京大学先端科学技術研究センター教授が、今回の研究の目的や成果を報告。ビッグデータ利活用による「データ駆動型医療」になれば、エビデンスに基づく予防・先制的なプロアクティブ型の個人化医療が進み、個人医療情報のポータル化、モバイルヘルスケアや医療SNSといったビジネスの普及によって、私たちのQOL(Quality of Life)が格段に向上するという未来像を示した。

■ パネルディスカッション

続いて行われたパネルディスカッションでは、森川研究主幹をモデレータに、塚田信吾・NTT物性科学基礎研究所主幹研究員、佐藤賢治・佐渡総合病院外科部長・佐渡地域医療連携推進協議会理事、石井夏生利・筑波大学図書館情報メディア系准教授を迎え、同研究プロジェクトの研究副主幹である川渕孝一・東京医科歯科大学大学院医療経済分野教授との間で、ビッグデータの利活用がもたらす医療・健康サービスの未来像について、活発な討議が行われた。

塚田主幹研究員は、着るだけで24時間、心拍や心電図を計測できる「電極内蔵シャツ」を考案し、病院外での健康管理で予防医療を進め、医療費削減にもつなげたいと研究の意義を示した。

佐藤理事は、「『さどひまわりねっと』(地域医療連携ネットワーク)では、医療・介護施設、薬局等に有償で提供することによって、データ利活用の意識づけを促した。公的補助に依存した他地域のネットワークは当事者意識が低く、ほとんど機能していない」と指摘した。

石井准教授は、「わが国ではパーソナルデータの利活用によるビジネス促進の観点も踏まえ、個人情報保護法制の見直しを進めている。独立監視機関と越境データ移転制限条項を設けて欧州並みの保護水準を確保し、米国法等を参考に匿名化要件を明確にし、安心して利活用ができる環境を整備することが大切である」と強調した。

川渕教授は、わが国には医療関連データは多数蓄積されているものの、「分析できるデータ」と「アクセスできる仕組み」がなく、政策にも活かされていないと指摘し、匿名化された個人の時系列データの収集により、医療資源の配分を見直し、エビデンスに基づく質の高い医療には経済的インセンティブを与えるような Pay for Performance の仕組みを実現すべきであると述べた。

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シンポジウムの詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】