Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年8月7日 No.3188  日本企業が抱える人材マネジメントの課題とその対応策について聞く -人事・労務委員会

経団連は7月25日、東京・大手町の経団連会館で人事・労務委員会(岡本毅委員長)を開催した。一橋大学大学院商学研究科の守島基博教授から、日本企業が抱える人材マネジメントの課題と対応の方向性について講演を聞いた後、意見交換を行った。
講演の概要は次のとおり。

■ 求められる人材マネジメントのパラダイムシフト

人材マネジメントは企業の競争力強化に必要な人材の供給をはじめ、人事課題への解決策を示し、経営に貢献することを目的としており、戦後から一貫して自社の成長を支え、競争力を維持する基盤として機能してきた。

しかし最近は、事業環境の変化のなかで、イノベーションの担い手やグローバル人材が不足するなど、その機能が低下している可能性がある。

また、個々の職場では「人が育ちにくくなっている」「職場の活気が失われている」など、組織力や人材力の低下を危惧している企業も少なくない。

人材不足が事業拡大や戦略達成を妨げている状況は、企業の「人材倒産」へとつながるおそれがあることから、総合的な枠組みと考え方の転換(パラダイムシフト)が求められている。その方向性としては次の四つが挙げられる。

■ 人材の層別管理による優秀層の育成

「優秀層」「普通層」など、それぞれに適した人材マネジメントを行う必要がある。特に優秀層については、「何もしないでも育つ」と考えるのは間違いであり、抜擢や活躍のチャンスを与えないことで発生してきた機会の損失を「隠れた人材コスト」ととらえ、潜在能力がある人材を選抜し、中核人材として戦略的に育成していくべきである。

その際の重要なポイントは「適所適材」であり、戦略上重要なポジションを具体的に明らかにしたうえで、配置のための育成をする必要がある。また、経営の時間軸に合わせて育成スピードを上げていく「時間軸のアラインメント」が求められる。

さらに、リーダーシップやリスクを取る意志などの「潜在能力(資質)を重視」した人材評価を行い、成長力に比重を置くべきである。ただし、潜在能力をもとにした評価と配置はリスクを伴うことから、「リスクヘッジ」のために、降格の仕組みやその後の挽回方法などを明らかにした評価制度が不可欠となる。

■ 個を尊重した「普通層」の人材マネジメント

経営目標の達成には、組織の大半を占める普通層のモチベーションの維持・向上とがんばりが欠かせないが、普通層は能力レベルやスキル、価値観などが多様である。

そこで、期待する役割や内容を職務のかたちで明確にする「職務主義的な人事管理」が重要となる。また、個々人のニーズに対応できるよう、多様な働き方の選択肢を可能な限り用意するとともに、異なる考え方や価値観を認める職場風土をつくるといった「個が尊重される人材マネジメント」が求められる。

■ 強い組織の開発

経営の基本は戦略論と組織論であり、優れた経営戦略も組織を伴わなければ目標の達成はできない。協働への意識づけや組織理念の共有、一体感の醸成などに取り組み、一つの「生き物」のように動く強い組織を開発する必要がある。

そのうえで、「OJTが機能する」「リーダーが次のリーダーを育てる」など、組織として必要な能力・強みの確保を図っていくことが肝要となる。

■ 人事部の役割

日本の現場リーダーは人材マネジメントの主体者という意識が薄いため、人事部の果たす役割は重要である。人事部には、人材マネジメントの変革を遂げ、経営目標を遂行して組織に貢献するという意識が、これまで以上に求められている。

【労働政策本部】