Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年11月6日 No.3199  第11回「経団連 Power Up カレッジ」開催 -「修羅場が人をつくる」/日産自動車の志賀副会長が講演

経団連事業サービス(榊原定征会長)は10月9日、東京・大手町の経団連会館で第11回「経団連 Power Up カレッジ」を開催し、日産自動車の志賀俊之副会長から講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ 「日産リバイバルプラン」でなぜV字回復をしたか

当社は1990年代に2兆円超の負債を抱える経営危機に陥ったが、99年のルノーとの提携、カルロス・ゴーンのCOO着任を契機に2年で負債がゼロとなり、利益率も回復した。ゴーンは就任後の3カ月間で世界中、全部門で徹底した現場ヒアリングを行い、各従業員に「会社にどのように貢献しているか、復活のために何をなすべきか」を問い続けた。そのうえで経営不振の要因と回復の可能性を全従業員に提示し、40代前半を中心とする機能横断型のチームを結成、「日産リバイバルプラン」を立案させた。このようなボトムアップのプロセスが従業員自身の復活への覚悟と迅速な計画の実行へつながった。

私は90年代前半のジャカルタ駐在を通じ、アジアビジネスの熱気と迅速な経営判断に刺激を受けた。当時、当社を含め日本企業が自信を喪失し苦境に陥る様子と、米国のすばやい産業構造転換や競争力強化を外からみており、変革の必要性を訴え続けていた。その後ルノーとの提携交渉に携わり、ゴーンとの出会いを通じ、社長業を生業とする「プロの経営者」の姿を目の当たりにしてきた。ゴーンの手法はシンプルといえるが、なぜ日本の経営者では再生できなかったのか。

■ 真のリーダーを目指す

知識・スキルを磨きコンピテンシーを備えた「仕事が出来る人」とリーダーとは異なる。「仕事の出来る人」がリーダーシップを身につけて初めて、チームの力を最大化するリーダーとなれる。さらにそのうちの一定層だけが従来のやり方にとらわれず変革を起こすチェンジ・リーダーとなる。

私の入社時の夢は故郷である和歌山の販売会社の社長になることであった。振り返ればその目標に必要な知識・スキル・コンピテンシーを見据え、その時点の自分とのギャップを埋めていく努力を当時から続けてきた。

例えば同業他社で自分と同じ領域を担当する人と会って、自分の知識・スキル・コンピテンシーを比較する。企業の競争力は人であり、個々人が負けたら会社が勝てるはずがない。異動する先々でこのような比較を続け自分の競争力を意識し、さらに努力を重ねてきた。

リーダーになるために必要なのは、「どのようなことがやりたいか、そのためにはどのようなポジションを目指すか」というキャリアビジョンの明確化であり、目標となる人の行動特性を学んでいくことである。この過程で伸びが止まる人もいれば、修羅場や壁、厳しい状況を経て飛躍する人もいる。

いわゆる「サラリーマン経営者」は社内で昇進するなか、泥をかぶる機会が限られ、結果として修羅場におけるコンピテンシー、すなわちプライオリティーを決め迅速に意思決定する力が弱い。これが企業再生を託される「プロの経営者」との違いなのではないかと考える。

■ 修羅場を呼び込む志

人生で一番幸せを感じるのは、自分の成長を実感している時である。越えられないと思った壁を越えたとき、自分では気づかない成長をしている。そのような意味で「修羅場が人をつくる」といえる。

私にとって99年のルノーとの提携交渉がまさに修羅場であった。会社の格付けが下がり、金融機関からの借入が不可となり、並行して進んでいた他社との交渉も決裂、2週間以内で資金がショートするという状況で交渉をまとめなければならなかった。この経験が、その後も続く企業再生に向けた厳しい仕事を乗り越える力につながっていった。

職業人生においてタフな状況に遭遇したら、これを受け止め、糧としてほしい。自ら修羅場を呼び込む志を持つ者だけが、修羅場を越えられる。そして野心がなければ成長しないし、また、謙虚でなければ成長できない。

【経団連事業サービス】

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