Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年11月27日 No.3202  わが国経済外交におけるパブリック・ディプロマシーのあり方を聞く -経済外交委員会企画部会

経団連の経済外交委員会企画部会(清水祥之部会長)は7日、東京・大手町の経団連会館で近藤文化・外交研究所の近藤誠一代表(前文化庁長官)から、わが国経済外交におけるパブリック・ディプロマシーのあり方について説明を聞いた。説明概要は次のとおり。

■ 新たな外交としてのパブリック・ディプロマシー

経済外交、資源外交、文化外交、広報外交などさまざまな用語が散見されるが、外交は官民を挙げた国の総合力である。「伝統的外交」は国益の維持・拡大を目的とした政府間の協調や対立(官から官)を特徴とするが、例えば経団連による「民間外交」(民から官)が相手国に影響を及ぼし得るのは厳然たる事実である。

他方、政府が相手国の国民に働きかける官から民の動きが「パブリック・ディプロマシー」(PD)の基本的な概念である。これらを組み合わせ、国家の総合力としての外交をいかに日本のイメージアップや資源獲得等に活用していくかが重要な課題である。

■ PDの武器として重要なソフトパワー

米ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、軍事力や経済力によらず魅力によって望む結果を得る力を「ソフトパワー」と定義している。今日、民主主義の地理的拡大や経済発展による中間層の増加等に伴い、ソフトパワーの重要性が増している。ソフトパワーは、軍事力等のハードパワーに比して予測不可能で効果が測りにくいなどの短所はあるものの、世界各国における「ハローキティ」ブランドの確立などにみられるように、いったん定着すると世代を超えて長続きするという長所がある。

■ 経済外交におけるPDの具体的事例

PDは国の一般的なイメージの向上や、特定問題の有利な決着などに活用される。例えば1995年の日米自動車交渉では、日本製自動車に100%関税を課すとの強硬姿勢を崩さない米国との間で厳しい政府間協議が行われ、結果的には日本の主張がおおむね通るかたちで交渉が妥結した。しかし、翌96年に大統領選挙を控え、米自動車業界の意向を考慮したビル・クリントン大統領(当時)は米メディアを巧みに利用し、あたかも閉鎖的な日本市場をこじ開けることに成功したかのようなイメージをつくり出した。

また、富士山の世界遺産登録は、わが国のPDが奏功した例である。ユネスコは当初、富士山とは地理的に離れた三保の松原も含め、両者一体的に世界遺産に登録することは認められないという立場であった。しかし、誠意を前面に押し出し、日本人に対する良好なイメージも活用しながら、日本文化の奥深さや洗練を世界各国関係者の感性に訴えかけた結果、昨年6月、三保の松原も含め富士山が世界文化遺産として登録されるに至った。

これら事例も踏まえ、経済外交においては、相手国および自国の国民に対し、日本の主張の妥当性や交渉をまとめることの利益を訴えるとともに、影響力のあるメディアも活用し、PDを戦略的に推進していくことが重要である。

【国際経済本部】