Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年12月4日 No.3203  第50回経団連洋上研修 -社会の課題を解決する新規ビジネスの創造に挑戦

経団連事業サービス(榊原定征会長)は11月12日から18日までの7日間、「東北から明日の日本を切り拓く―たゆまざる改革と創造のチェンジ・リーダーを目指して」を総合テーマに、第50回経団連洋上研修を実施した。日本全国の企業・団体から管理・監督者89名が参加した。参加者は三つの班に分かれ、さらに6~7人のグループで討議し、社会課題を解決するビジネスモデルの構築に取り組んだ。

また、今回初めてグローバルリーダーコースを設け、国際的にビジネスを展開していくうえで必要なコミュニケーション能力や異文化理解について英語で学ぶとともに、架空のビジネスパートナーに対して日本の市場に進出する際の連携のあり方について提案するというかたちで研修を行った。

■ グローバルな視点と地道な生活者ニーズの掘り起こし

特別講演を行う大宮名誉団長

グループ討議に先立ち、名誉団長を務めた大宮英明経団連副会長・三菱重工業会長が「この星に、たしかな未来を」と題する特別講演を行った。大宮名誉団長は、「現在の世界は、短期的視点に終始しており、資本主義も民主主義も変調を来たしている。10年先、100年先、さらに1000年先を見据えた長期的視点への変換が必要であり、そのために規制の改革や規範の改善をしていかねばならない」「貿易立国日本としては、国内企業再編や海外有力企業との連携を進めながら、世界標準の企業統治を行い、地政学的リスクと機会をしっかりとらえて事業を展開する必要がある。特に、新興国が『中進国の罠』から脱却できるよう、インフラ整備から産業育成までをパッケージで支援することを通じて、世界経済の安定化に貢献するという視点を持つべきである」と述べ、三菱重工業における経営改革や事業戦略を紹介した。

さらに、前半のアドバイザーとして乗船した浜田正幸・多摩大学教授から、新規事業の創造プロセスについて事例をもとに解説があった。特に行動観察などを通じて生活者自らが気づいていない潜在的ニーズを把握することが大事であるとの指摘があった。

柿内幸夫・慶應義塾大学大学院特別招聘教授からは「イノベーションを生み出すモノづくり経営」をテーマに講演があり、イノベーションの創出に向け「鳥の目」「虫の目」「魚の目」という三つの視点を持つことの大切さを説明したうえで、日本の製造業における「知のすり合わせ」の強みなどが紹介された。

また、福島県沖では「福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム」を船上から間近に見学した。この実証実験の牽引役を務める丸紅の担当者から解説を聞き、国際的な新規事業の開拓、再生可能な次世代エネルギーの実現など、大きな視野に立ったビジネスモデル構想の実例を見る機会となった。

■ 課題先進地域である被災地の視察が討議を後押し

その後、岩手県釜石市に入港し、寄港地研修を実施した。参加者は、グループ討議で描いた生活者ニーズ仮説を検証するという課題を踏まえ、4コースに分かれて視察。三陸鉄道や水産加工業の復興、仮設団地の自治会の取り組み、子育て中の女性の働く場や漁村・森林での仕事づくり、住民が誇りを取り戻せるようなまちづくり、復興ツーリズムなど、さまざまな活動現場を訪れ、被災者の声に耳を傾けた。

小泉復興大臣政務官との意見交換

視察後には、船上において岩手県を訪問中の小泉進次郎復興大臣政務官と意見交換を行った。小泉大臣政務官は、被災者の方々とのエピソードを紹介しながら、「場づくり、人材不足、誇りが持てるまちづくりなど被災地が抱える課題は、地方再生の課題でもある。被災地の課題をどう解決するかは、日本の将来の行方を決める。誰であれ、どんな組織であれ、健全な危機感と覚悟を持って取り組む必要がある」と参加者を激励した。

被災地での視察、小泉大臣政務官との意見交換を経て、参加者は生活者ニーズをより具体的にイメージしながら、ビジネスモデルの構築に集中的に取り組んだ。後半のアドバイザーを務めた野田稔・明治大学大学院教授による「ビジネスモデルと事業戦略」や「リーダーシップ論」などの講義が討議を加速させた。最後に、各グループが、ビジネスモデルの立ち上げ期と数年後の成熟期に目指す姿を描くという討議結果をまとめ、高齢者福祉、農漁村の活性化、子どもの居場所づくり、子育てしながら働ける場の創造などの分野で、実現可能性の高いビジネスモデルの提案も生まれた。

■ 事業創造リーダー研修の必要性

参加者からは、「広い視野でビジネスモデルを作成するという未知の体験ができた」「簡単には解決しないテーマに取り組んだ点がよかった。難しい課題であったが、意見の食い違いのなかから最善策を導く検討を行うことに意義がある」「被災地の方々のお話しを聞いたことで現状を何とかしたいと強く思い、自分の原動力となった」などの感想が寄せられた。今回の研修を通じ、異業種交流や現場での行動観察を含めた「課題解決型研修」の意義が確認できた。

旧大槌町役場前では復興語り部から説明を聞いた

【経団連事業サービス】