Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年4月2日 No.3218  「財政健全化への道筋~社会保障改革を中心に」テーマに慶應義塾大学の土居教授から聞く -財政制度委員会・社会保障委員会合同企画部会

経団連の財政制度委員会・社会保障委員会合同企画部会(太田克彦財政制度委員会企画部会長、浅野友靖社会保障委員会企画部会長)は3月19日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授から、「財政健全化への道筋~社会保障改革を中心に」をテーマに説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。

1.財政健全化の重要性

2025年度までにすべての団塊の世代は75歳に到達するため、自然体でも社会保障費は大きく増大していく。日本の債務残高はGDPの2倍程度まで積み上がっており金利上昇リスクに脆弱であることや、デフレ脱却後に日銀が政策を転換すれば、将来的な金利上昇リスクが高まること等を踏まえると、早期の財政健全化が不可欠である。

しかし、内閣府が2月に公表した「経済財政の中長期試算」によれば、名目3.5%前後の高い成長率が続くという楽観的見通しに立っても、20年度で9.4兆円のPB(プライマリーバランス)赤字が残るとされ、20年度PB黒字化という財政健全化目標達成の目途は立っていない。

2.PB黒字化の重要性

財政健全化目標を考えるにあたり、PBではなく、政府債務残高対GDP比を重視すべきとの意見もある。しかし、中長期試算によれば、名目成長率が金利よりも高い期間が続くこともあり、PBが黒字化せずとも、政府債務残高対GDP比は低下していくとされている。したがって、政府債務残高対GDP比を目標にするということは、財政健全化努力をしなくてもよいということと同義であり、2020年代に向けて社会保障や税制がそれでよいわけがない。

他方、PB対GDP比の改善は、必ず政府債務残高対GDP比の改善に資する。20年度のPB黒字化は財政健全化の一里塚であり、まず目指すべき目標である。

3.社会保障改革の方向性

歳出の無駄は不断の努力でなくすべきであるが、非社会保障支出の削減余地は限られている。他方、社会保障費は、20年度までに公費ベースで10数兆円の増加が見込まれており、過剰な支出の削減や効率化の追求が不可避である。NIRA(総合研究開発機構)では、社会保障費抑制の具体的な施策として、(1)医療提供体制の改革(2)ジェネリック医薬品の普及(3)調剤医療費の抑制・薬価の適正化(4)介護給付の効率化・自己負担引き上げ等(5)公的年金等控除の圧縮――の5つを挙げた。これらすべてに取り組んだ場合、PB赤字を3.4~5.5兆円程度削減できる。

しかし、20年度PB黒字化の要対応額を9.4兆円とすると、依然3.9~6兆円程度が不足する。その部分は、消費税率2%前後の引き上げなど追加的対応が必要である。社会保障の削減や増税に反対するのであれば、具体的な対案を示すことが責任ある議論であろう。

【経済政策本部】