Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年4月9日 No.3219  日本外交の基本戦略等を聞く -北岡国際大学学長から/経済外交委員会

講演する北岡国際大学学長

アジア太平洋地域のパワーバランスが大きく変化するなか、地域の成長の前提である平和と安定を維持し、強固なものとしていくことは極めて重要な課題である。

経団連の経済外交委員会(大林剛郎共同委員長、中野和久共同委員長)では2013年6月の設置以来、こうした問題意識のもと、わが国経済外交のあり方について提言を取りまとめるべく、総合的かつ多面的に検討を進めてきた。その一環として3月23日、都内で会合を開催し、提言案の審議に先立ち、日本外交を専門とし、国連代表部次席代表等政府の要職も歴任してきた北岡伸一国際大学学長から、経済外交の礎となる日本外交の基本戦略について説明を聞いた。

説明の概要は次のとおり。

■ 新しい地政学の時代

今日、普遍的な原則より力がモノをいう、新しい地政学の時代を迎えている。歴史的に、陸続きの国境を有する大陸国家は安全保障上の懸念から力に傾きやすいのに対し、海に囲まれた海洋国家は普遍的価値を志向する傾向が強いことから、対立関係を招きやすい。

しかし、2回の世界大戦を経て、国際紛争を武力で解決しないという大原則が形成されたのは、国連憲章や日本国憲法に共通する重要な点である。

一国の外交政策は歴史的・地理的条件から自由になれないが、国際社会は長期的には、民主主義や人権、法の支配、市場経済など普遍的価値の方向に収斂していくと思われる。異なる価値や宗教、文化が共存する世界を実現するためにも、普遍的原則を柔軟かつ戦略的に適用することも含め、辛抱強い外交努力が求められる。

■ 安全保障政策におけるシーレーン確保の重要性

わが国が平和と安全を維持するためには、国際協調のもとで積極的な平和主義を打ち出しつつ、自由な国際通商体制を堅持することが不可欠である。しばしば食料安全保障の重要性が叫ばれるが、いくらコメ等の食料が輸入できても、石油等のエネルギーがなければ生き延びることはできない。

食料およびエネルギーの安全保障について重要なのは、安全で開かれたシーレーンを確保することである。世界の海上交通の安全を維持する観点から、わが国も積極的な役割を果たす必要がある。

■ わが国外交をめぐる課題と今後の道筋

外国で邦人がテロ等の危険にさらされたとき、国民の生命を守る観点から、自衛隊が在外邦人の輸送のみならず、救出活動等に参加できるよう法制度を整備することが望ましい。有事の際に即応できる体制を整えておくことが、一定の抑止力として効果を発揮するものと期待される。

ただし、中心はあくまでソフトパワー(注)である。アジア諸国の多くは日本のこれまでの取り組みを高く評価している。日米関係を強化しつつ、日中関係を改善するなど、アジア諸国と連携していく日本のメッセージを強く打ち出していくべきである。

(注)ソフトパワー=軍事力や経済力等の対外的な強制力(ハードパワー)によらず、国の有する文化や価値観、魅力等に対する支持や理解、共感を得ることによって、国際社会の信頼や発言力を獲得し得る力

【国際経済本部】