Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年5月28日 No.3225  「経済成長と財政再建の両立」テーマに説明聞く -東京大学大学院の吉川教授から/財政制度委員会・社会保障委員会

説明する吉川教授

経団連の財政制度委員会(石原邦夫委員長)・社会保障委員会(斎藤勝利委員長、鈴木茂晴共同委員長)は12日、東京・大手町の経団連会館で合同委員会を開催し、東京大学大学院経済学研究科の吉川洋教授から、「経済成長と財政再建の両立」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

1.わが国の財政状況について

現在債務残高対GDP比は、200%を越えてしまっている。財政赤字は構造的なものであり、成長による自然増収を見込むことができても、このまま放置してはいけない。

他方、債務から資産を差し引いた純債務残高でみれば、決して財政状況は悪くないという議論がある。しかし、政府資産の多くは、例えば政府の建物、年金積立金の運用寄託金等、常識的に債務返済に充てることができず、純債務残高から財政状況を判断することは適切ではない。また、日本国債の海外保有比率が低いので、欧州のような財政危機は起こらないといった議論もあるが、いつまでも大丈夫と断言することはできない。

2.財政目標について

財政状況を判断するうえで重要となる指標は、債務残高対GDP比にほかならない。これを安定的に下げていくためには毎年のフローにかかわる基礎的財政収支(プライマリー・バランス、PB)を黒字化することが不可欠である。

他方、金利よりも高い経済成長率を達成することができれば、債務残高対GDP比を引き下げることができるという主張がある。しかし、こうした主張は誤りである。なぜなら、どの国でも長期的に経済成長率は金利を下回っていることは研究から明らかであるためだ。また、PBの黒字化では甘すぎ、財政収支を改善すべきとの指摘もあるが、それは経済状況等を勘案しつつPBの黒字化をどこまで図るかということにほかならない。

3.PB黒字化に向けて

経済成長は財政再建の必要条件であるが、十分条件ではない。歳入面では、2017年4月に予定されている消費税率の10%への引き上げを着実に実施すべきである。歳出抑制を図り、さらに消費税率を引き上げていくという方法が現実的であろう。

歳出改革においては、一般歳出の約4割を占める社会保障関係費の見直しが不可欠である。

25年度の社会保障給付費は、高齢化に伴い12年度から年金が1.1倍、医療が1.5倍、介護が2.3倍と増加し、総額で148.9兆円となる見通しである。年金の伸びは、マクロ経済スライドが制度に組み込まれているため抑えられるので、社会保障改革の本丸は医療と介護である。例えば、同じ病気でも医療費には地域差があるなど、適正化の余地はあるのではないか。

経済成長のみで財政再建を実現することはできないが、経済成長に対する人口減少のマイナスの影響を過大視してはならない。かつての高度成長期も労働生産性の上昇と資本ストックの増加が成長に大きく寄与していた。イノベーションを喚起し、成長力を高めることが極めて重要である。

【経済政策本部】