Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年8月27日 No.3236  各国の競争法に対応するコンプライアンス体制整備を -最近の競争法執行状況等を踏まえ解説/経済法規委員会競争法部会

経団連は7月23日、東京・大手町の経団連会館で経済法規委員会競争法部会(川田順一部会長)を開催し、経済産業省経済産業政策局の金谷明倫競争環境整備室長から、経済産業省が今年4月に公表した「各国競争法の執行状況とコンプライアンス体制に関する報告書」について説明を聞き意見交換を行った。
説明の概要は次のとおり。

■ 競争法コンプライアンスの重要性

近年、競争法を導入する国が増加するなか、グローバルにビジネス展開を行う多くの日本企業が、外国の競争当局からカルテルで摘発され高額な制裁金を課されている。とりわけ、各国当局がリニエンシー(課徴金減免制度)(注1)やアムネスティ・プラス(注2)を導入し、企業が積極的にこれらを活用するようになったことで、連鎖的にカルテルの摘発が行われることも要因と考えられる。

競争法違反は、制裁金による財産的な損失だけではなく、社内の懲戒処分による人材の損失、社員のモラールの低下・萎縮を含め企業の経営資源に大きなリスクをもたらす。

企業においては、わが国独占禁止法の遵守はもとより、諸外国の競争法の規定や執行の傾向を意識し、自社のリーガルリスクを洗い出し、その軽重に応じコンプライアンス体制を強化するとともに、必要に応じて事業のやり方の見直しを行っていくことが重要である。

■ 最近の競争法の執行の傾向と留意点

各国当局は、外国で行われたカルテルでも自国市場に大きな影響を及ぼす場合には、競争法を域外適用する動きがある。企業は各国の競争法や当局の執行に関する考え方や基準等に留意する必要がある。

また、弁護士・依頼者間秘匿特権(注3)は欧米等で認められているが、わが国の独禁法には秘匿特権に関する明文の規定がない。そのため、わが国の事業者等が日本の公正取引委員会に任意で提出した資料はもちろん、公取委の命令で提出した資料についても、外国の裁判所によっては秘匿特権を放棄したと評価する可能性がある。企業は、各国の秘匿特権の要件等を理解するとともに、有事の際には外国の裁判所に秘匿特権を主張できるよう対策を講じておく必要がある。

■ 競争法コンプライアンスの体制整備・強化

競争法コンプライアンスに取り組む際の基本的な視点として、予防の観点からは、トップの意識改革、コンプライアンス・ルールの策定、効果的な研修等が挙げられる。

特にEUでは、子会社の競争法違反に関し親会社の責任が問われるため、子会社の法令遵守活動も重要である。また、証拠として活用するために、文書管理体制を強化することも有益だ。

また、違反行為の発見と違反行為発覚後の迅速かつ適切な対応に向けて、内部監査制度、社内リニエンシー制度の導入検討、社内調査体制の設置等が有益だ。違法か疑わしい場合の初動調査もカギになる。その際は、各国法や当局の執行傾向、民事訴訟の動向にあわせ、適切な対応を取るべきである。

例えば、米国では、民事訴訟における和解のタイミングを見定めることや、秘匿特権の主張を含む適切なディスカバリー対応が必要だ。EUでは、民事訴訟への影響を踏まえ、当局との和解を積極的に検討することが考えられる。新興国では、政府の関心の高い事業分野に関心を持ち、当局に不慣れな面があっても誠実に対応することが重要だ。

(注1)リニエンシー
カルテルに関与した場合でも、自主申告することにより制裁を減免される制度
(注2)アムネスティ・プラス
事業者等がリニエンシーを申請し審査協力した事実を、リニエンシーが認められなかった別の違反事件の審査にあたって米国司法省が考慮するもの
(注3)弁護士・依頼者間秘匿特権
当局や訴訟相手に対し、弁護士による依頼者の法的助言を目的とした交信等、一定条件を満たす書類の提出や開示を拒むことができる権利

【経済基盤本部】