Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年9月3日 No.3237  コーポレートガバナンスの実践に向けた取り組みを聞く -経済法規委員会企画部会

経団連は8月5日、東京・大手町の経団連会館で経済法規委員会企画部会(佐久間総一郎部会長)を開催し、経済産業省経済産業政策局の中原裕彦産業組織課長から、経産省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」が7月に公表した報告書「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革」について説明を聞き意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

1.報告書の背景

近年、わが国企業は産業構造の転換、非連続なイノベーションの創出、コストの削減等が求められる熾烈な競争環境に置かれている。こうしたなか、企業の稼ぐ力の向上に向け、会社法の改正(今年5月から施行)やコーポレートガバナンス・コードの策定(今年6月から適用開始)がなされた。

今後、従来のビジネスの仕方を超えた新しい仕組みづくり・ビジネスモデルを構築し、さらに企業収益を高めていくためには、取締役会の機能強化や内外からの優秀な人材の獲得競争への対応が重要な課題となっている。そこで報告書では、取締役会に関する企業実務や人材獲得・インセンティブづけに向けた役員報酬やリスク低減策を整理するとともに関連する法的論点についての解釈指針を示している。

2.報告書の概要

  1. (1)企業における取締役会実務(ボードプラクティス)の整理
    コーポレートガバナンス・コードにより、取締役会の機能強化が求められていることを受け、報告書では、各企業における主体的な検討や取り組みを行う際の参考となるよう、取締役会における実務の具体例(ボードプラクティス)を収集・整理した。例えば、わが国企業の取り組み事例として、取締役会の付議基準・付議事項に関する事例、社外取締役の活躍事例等を、海外企業の先進事例として、報酬の構成要素の概要や後継者の計画を開示している事例をそれぞれ紹介している。

  2. (2)役員報酬によるインセンティブの付与
    わが国企業の役員報酬は固定報酬が中心であり、英米と比較して業績連動報酬や株式報酬の割合が低く、業績向上のインセンティブが効きにくい状況にある。加えてわが国では、中長期的な業績目標の達成度合いによって交付される株式報酬(パフォーマンス・シェア)や、一定期間の譲渡制限が付された株式報酬(リストリクテッド・ストック)といった中長期のインセンティブとして欧米で一般的に利用されている手法が未発達である。
    そこで報告書では、これらの報酬制度を導入する際の簡易な手法として、金銭報酬債権を現物出資する方法を用いる手続きを整理している。

  3. (3)会社補償や会社役員賠償責任保険(D&O保険)による適切なリスク低減
    国内外における人材獲得競争がますます激化するなかで、わが国企業の役員が無制限の結果責任を問われかねない現状を放置したままでは、優秀な人材を内外から確保する際の障害になる。
    そこで報告書では、役員が損害賠償責任を追及された場合に、会社が当該損害賠償責任額や争訟費用を補償する会社補償について、社外取締役を活用した一定の要件や範囲のもと、現行の会社法上可能であることを明確化している。またD&O保険については、企業や役員が保険条件を確認する際の実務上のポイントを整理するとともに、社外取締役を活用した一定の要件のもと、会社による保険料の全額負担が会社法上可能であることを明確化した。

  4. (4)法的論点の解釈の明確化
    その他報告書では、会社法上取締役会に上程が強制される「重要な業務執行の決定」の範囲、社外取締役が行った場合に社外性を失う「業務執行」の範囲、社外取締役の監視義務の範囲、会社が取締役に対する提訴の判断を行う場面における社外取締役の監督機能の活用等に関する法的解釈についても整理している。

【経済基盤本部】