Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年2月25日 No.3259  シリーズ「地域の活性化策を考える」 -地域間のイノベーション競争/元橋一之・東京大学大学院工学系研究科教授/21世紀政策研究所

元橋一之・東京大学大学院
工学系研究科教授

21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)では、内外の学者・研究者など多彩な人材を研究主幹に迎え、経済法制、産業・技術、環境・エネルギー、外交・海外等の広範な領域にわたる研究に取り組んでいる。

シリーズ「地域の活性化策を考える」の第3回は、元橋一之・東京大学大学院工学系研究科教授「地域間のイノベーション競争」。同氏は、オープンイノベーションに関する同研究所のプロジェクトの研究主幹を務め、報告書「外部連携の強化に向けて―中堅企業に見る日本経済の新たな可能性」(2012年6月)、「日本型オープンイノベーションの研究」(15年6月)において、日本では雇用の流動性が低い(特定の大学や企業との付き合いが長く続く)ことを踏まえたオープンイノベーションが必要だと主張している。

◆ 多様性のメリット

地方からは、東京では考えられないようなイノベーションが起こってくるのではないかと期待しています。

その理由として、地域の多様性が挙げられます。イノベーションは、異質なもの、多様なものの組み合わせから生まれます。同質なものをいくら集めても、なかなかイノベーションには結びつきません。地域に根ざした、地域ならではのネタを掘り起こしてイノベーションにつなげていくことが可能だと思います。

インドの「グラスルーツイノベーション」は、地方自治体が地域の特性を活かしたイノベーションを発掘して表彰するもので、外部に対して「見える化」することによって、それを事業化する人が現れ、いろいろなものが商品化されていきます。日本でも、一村一品運動、アイデアコンテストなどの先行事例があります。

しかも、新興国で生まれたイノベーションや新興国向けの製品や経営のアイデアを、先進国を含めて世界に普及させる「リバースイノベーション」が注目されています。地域のイノベーションが日本全国、さらに世界中に広まる可能性もあります。

ただ、地域の多様性といっても、地域の人たちにとっては日常のことであり、何がイノベーションのネタになるのか、なかなか気づき難いかもしれません。そこで、大学や企業、地方自治体など外部の専門家とのつながりを持つこと、すなわち人的交流が重要になります。地域のイノベーションを起こしていくには、まず地域の持つ特性に目を向けて、それを広く外部に発信していくべきです。

◆ 規模の適切性

社会的なイノベーションにおいては、地域の適度な規模も重要な要素です。ビッグデータを使った病院経営の効率化(岐阜大学)やスマートシティ、交通システムのモデル都市などは、大都会よりも地方の方がまとまっていて効率を上げやすいのです。

いま特区で規制緩和をして産業を興そうとしていますが、もっときめ細かく地方の独自性を発揮できるような規制緩和を検討したり、自治体の権限・制度でこれから出てくるような技術の導入をしたりしてはいかがでしょうか。都道府県レベルでは難しいことも、市町村レベルで自由度を高めて多様性を追求していくと、面白いイノベーションが出てくると思います。

また、企業の規模についても、大企業の儲かる分野は、利益の規模からおのずと限られた似たものになりがちですが、中小企業は小回りが利いて多用な事業を展開することが可能で、地域のイノベーションの受け皿になります。

マクロでみれば、少子高齢化によって地域経済は縮小せざるを得ませんが、それぞれの市町村では独自のイノベーションを起こして競争することによって活性化する余地が十分にあると思います。

【21世紀政策研究所】

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