Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年3月24日 No.3263  今後の都市政策の方向性を聞く -都市・住宅政策委員会

経団連は3日、東京・大手町の経団連会館で、都市・住宅政策委員会(宮本洋一委員長、菰田正信委員長)を開催し、国土交通省栗田卓也都市局長から今後の都市政策の方向性について聞くとともに、提言「今後の大都市政策の考え方」前号既報)について審議した。

講演では、大都市におけるインフラの意義や都市の現状と課題、観光、都市農業といった関連分野の政策、今国会で審議予定の都市再生特別措置法改正案について聞くとともに意見交換を行った。
講演の概要は次のとおり。

■ 大都市におけるインフラのストック効果

少子高齢化が進行するなかで経済成長を実現するには、生産性の向上が不可欠である。インフラへの投資は政府支出増による総需要増加といった短期的効果だけではなく、インフラを利用する産業にとって、生産性向上による生産力拡大という中長期的効果を持つ。このようなストック効果の具体例として、首都高速中央環状線の全線開通や圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の延伸により、中央環状線内の渋滞が約5割減少した事例や、物流拠点が増加し民間の投資を喚起したことが挙げられている。国交省としてもストック効果の発揮をより重視した取り組みを強化していく。

■ 都市と高齢化

東京圏では今後、団塊世代が一挙に後期高齢者になり、医療・介護ニーズが高まるとともに、特別養護老人ホームなどの高齢者施設の大幅な不足が見込まれる。一方、いち早く人口減少が進む地方では、施設の余剰が発生すると思われる。都市における高齢化の進展を踏まえ、今後は、住み慣れた場所で暮らしたいと考える高齢者への対応に加え、現在議論されている、日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)構想(注)も含め、さまざまな選択肢を検討していきたい。

■ 都市と観光

外国人旅行者1人当たりの消費額は、定住人口1人当たりの年間消費額(2014年=125万円)の9分の1に相当するという試算がある。昨年、訪日外国人旅行者数は過去最高の1974万人を記録しているが、目下の課題は東京都内のホテル不足である。しかし、神奈川、埼玉、栃木、群馬など周辺部にはまだ余力があり、観光客の流れを変えることができれば、定住人口の変動に近い消費拡大効果を得られるのではないかと考えている。同時に、観光バスの一時停車スペース不足といった課題についても解決を図りたい。

■ 都市と農業

都市農地は、これまで市街化区域において宅地化予備軍とみなされてきたが、そのあり方を考え直す時期に来ている。都市農業は販売額で全国の9%を占めており、今後は「あるべき空間資源」として位置づけていく必要がある。都市農地のあり方については現在農林水産省と協議中であり、来年以降、政策を具体化したい。

■ 都市再生特別措置法等改正案

今通常国会で予算関連法案として、都市再生特別措置法等の改正案の審議が予定されている。主なポイントは、(1)国際競争力・防災機能強化(民間都市再生事業計画の大臣認定期限の延長と手続き期間の短縮、国際会議場施設等の整備費への支援、一定のエリアでの災害時におけるエネルギー継続供給への支援等)(2)コンパクトでにぎわいのあるまちづくり(まちなかへの都市機能の誘導、官民連携によるまちのにぎわい創出)(3)住宅団地の再生(建て替え推進のための組合員数の算定方法の見直し)――であり、いずれも民間企業からの要請が強いものである。同法案については、関係者の協力を得て早期成立を図りたい。

<意見交換>

委員から「今後のインフラ投資はストック効果を高め、生産性の向上につなげようという方向性は高く評価するが、その際にはユーザー目線に十分留意すべきである。また、PPP/PFIによるインフラの維持・更新により大胆に取り組んでほしい」との意見があった。

これに対し、「関連する情報提供を充実させるとともに、民間企業の自由度が足りないとの指摘も受けているので対応していきたい」との回答があった。

(注)日本版CCRC構想=東京圏をはじめとする高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくりを目指す構想

【産業政策本部】