Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年5月19日 No.3270  日米関係の現下の課題を討議 -21世紀政策研究所が日米関係セミナー開催

21世紀政策研究所(榊原定征会長、三浦惺所長)は4月27日、都内で日米関係の現下の課題に関するセミナーを開催した。米大統領予備選が終盤に差し掛かるなか、いわゆるトランプ現象に象徴される米国政治の変化が顕著となり、先行き不透明感が高まりつつある。このような現状を踏まえ、同研究所「日米関係に関する研究プロジェクト」の久保文明研究主幹(東京大学教授)と安井明彦みずほ総合研究所欧米調査部長が、それぞれ米国政治の変化とその背景ならびにこれらの日米関係への影響に関する解説および討論を行った。

■ 日米関係の現下の課題

久保研究主幹は、選挙戦の最新情勢を解説のうえ、日米関係の課題について、「日米にとって、中国にどう対応していくのかが重要。中国の南シナ海での行動は、現在の国際秩序の変更につながる可能性がある。安倍政権は、安保法制等といった米国にとってありがたい変革を達成した点で米国での評価は高いが、日米がさらに協力し中国の動きに対応していく必要がある」と指摘。

加えて、日米安保条約について、非対称的同盟の長所短所に触れ、「日本に米国防衛の義務がない点は非対称的であるが、日本防衛以外に日本の基地を使用できる米国の権利で釣り合いは取れている。しかし、そこは理解されにくく短所の1つとなっている。他方、駐留米軍の災害援助等は長所である。長所は残し、短所を補っていければ、より強力な、お互いにより納得できる同盟となる」との考えを示した。

■ 「トランプ現象」の背景にあるアメリカ社会の変容

次に安井氏が、トランプ現象をもたらしている背景に加え、今後の米国にもたらす影響について、経済面を中心に解説した。

安井氏は、「トランプ現象はサンダース氏をあわせてみるとアウトサイダー旋風であり、その背景にあるのは米国国民の不満、それも鬱積した不満である。中間層の所得が1999年をピークに伸び悩む一方で、上位10%の層の所得はその間増加しており、中間層の暮らしの改善に向けた『分配』と『成長』の2つのアプローチの両方で米国は問題に直面している」と指摘した。さらに「伝統的には、民主党は『分配』政策を採り、共和党は『成長』政策を採る。しかし、この2つの政策で解決ができずに手詰まり感が出てきたのが最近であり、今回の選挙戦にも表われている。トランプ氏とサンダース氏の主要な支持層である中間層とそのやや下のいわゆるワーキングクラスの人々は、将来に懸念を持っている人々であり、『自分の今ある暮らしを守り、外には閉じていたい』との意向が強い」と分析。そのうえで「『守る/閉じる』政策の圧力は誰が大統領になっても続くと考えられる。他のはけ口を求める気運は残り、2020年の大統領選挙にも通奏低音として不満が残る可能性がある」と指摘した。

■ 討論=次期政権を見据えた日本の対応

続く両氏の討論では、通商問題について、いずれの候補が当選しても、昨年のTPP(環太平洋パートナーシップ)合意は米国内のネガティブな雰囲気を反映して、何らかの修正が迫られるであろうとの見解が示された。

また、トランプ氏が当選した場合の経済政策については、政策以前の問題として「不透明性が極めて高い」こと自体が大きな問題であると指摘。加えて、米国では現在、大企業やウォール街等に対する風向きがよくないこと、またオバマ政権は、金融機関の給料、企業の合併、租税回避等に神経質になっており、これは次期政権でも変わるとは考えられず、米国でビジネスを進めるうえでは気をつけるべきといった点を指摘した。

同研究所では、米大統領選挙の結果を踏まえた次期政権下における日米関係について、引き続き報告していく予定である。

【21世紀政策研究所】