Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年7月14日 No.3278  英国のEU離脱と日EU EPA交渉の現状を聞く -ヨーロッパ地域委員会

経団連は6月29日、東京・大手町の経団連会館でヨーロッパ地域委員会(佐藤義雄委員長、石塚博昭委員長)を開催し、羽田浩二自由貿易・経済連携協定交渉担当政府代表(日EU EPA交渉首席交渉官)、経済産業省通商政策局の南亮欧州課長から英国のEU離脱と日EU EPA交渉の現状について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 英国のEU離脱問題

羽田政府代表は、英国国民投票の結果、世界に激震が走りいまだに展望が見通せないものの、今年中の日EU EPA交渉の大筋合意という政府の方針に変わりはないことを強調し、英国のEU離脱問題の影響を注視しつつ交渉を前に進めると述べた。EU側も、日EU EPAやTTIP(EU米FTA)など主要国との通商交渉については、これを引き続き推進すると表明していること、また、国民投票の翌24日に開催された関係閣僚会議で安倍総理から金融市場の安定化に万全を期すよう指示があり、杉山外務次官がロンドン、ブリュッセル、ベルリンにおいて情報収集にあたっていることを説明、各国政府と連携して日本企業に悪影響が及ばないよう努めたいと述べた。

今後はリスボン条約第50条に基づき離脱の手続きが進められることになるとしたうえで、辞意を表明したキャメロン首相は新首相のもとで一連の離脱手続きを開始したい意向だが、EU側は、英国が不確実性を不必要に長引かせることなく速やかに手続きを進めることを期待していると説明。今後、英国とEUの間では、EUへの拠出金と英国の主権回復、すなわち義務と権利のバランスをいかに保つかが課題であり、ユンカー欧州委員長は「つまみ食いは許されない」と欧州内のEU懐疑派にクギを刺していると説明した。

南課長は、英国国民投票を受けて経済産業省幹部がロンドン、ブリュッセル、ベルリンにおいて鋭意情報収集に努めており、その結果を経済界とも適宜共有したいと述べた。また、6月28日には関係企業・団体の出席を得て、英国のEU離脱問題に関する経産大臣主催官民意見交換会を開催し、当日は主に為替の安定、自由貿易の推進、日EU EPAの年内合意実現、英国ビジネス環境の維持等をめぐり、活発な意見交換が行われたことを紹介した。

■ 日EU経済連携協定(EPA)交渉

羽田政府代表は、5月の日EU首脳会談やG7伊勢志摩サミットの際に発出された日EU仏独伊英首脳による共同ステートメントで確認された日EU EPA交渉の今年のできる限り早期の大筋合意というコミットメントの実現に向けて、正式な交渉会合のほかにも分野ごとに随時交渉を行うことで、交渉全体を加速させていると説明した。
同交渉のポイントは次のとおり。

  1. (1)物品市場アクセス
    日本はEUの鉱工業品等の高関税撤廃(乗用車10%、電子機器14%)に、EUは日本の農産品等の市場アクセスに関心あり。
  2. (2)非関税措置(NTM)
    今年4月、医薬品にかかる優良製造所基準(GMP)に関する日EU相互承認の対象国が15カ国から28カ国に拡大し、交渉に追い風となったところ。個人情報の越境移転に関し、日本側は日本企業が欧州で直面する規制上の問題の改善等について要望を提示。
  3. (3)政府調達
    先般開催した日EU鉄道産業間対話なども活用し、EU側の関心の強い鉄道分野も含め相互の市場アクセスの改善を推進。
  4. (4)投資
    日本は投資家と国との間の紛争解決(ISDS)手続きは必要との立場に立って、投資保護と規制権限のバランスに配慮しつつ交渉を継続。

【国際経済本部】