Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年10月6日 No.3287  コーポレートガバナンス・コード対応の傾向と課題<最終回> -課題と展望/森・濱田松本法律事務所 弁護士・澤口実

5回にわたって、コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)への対応の傾向と課題について、コーポレートガバナンス報告書(以下、ガバナンス報告書)の記載内容から分析をしてきた。

連載の最終回にあたり、これまでの分析を踏まえた全般的な課題と将来展望に触れてみたい。

1.「正解」はあるのか

コードの策定を契機に監査等委員会設置会社へ移行する会社が急増している。上場会社では、すでに650社以上が移行済みであり、今年中にも700社に届きそうである。一方、議決権行使助言会社が、監査等委員会設置会社について、社外取締役は2名では足りず4名または3分の1以上必要であり、その基準を変えることも検討中と報道されている。

コードで重視されている社外取締役についても、その増員と会社業績との相関関係について決定的な証拠はないといわれている。早くから社外取締役の登用が進んでいる米国でも同様だ。

以上のように、コーポレート・ガバナンスについては必ずしも「正解」があるわけではない。コードの各原則を実施するか否かの判断に際して、実施が果たして企業価値向上につながるのか経営者が確信を持てなくても不思議はない。

2.資本市場の国際競争

一方、資本市場・株式市場の国際競争は激しさを増しており、資金を日本株や日本企業に集めるためには、多くの投資家が望ましいと考える、あるいは他国の株式市場と遜色ない市場環境を整備する必要性が指摘されている。

コードの各原則は、基本的には投資家が望ましいと考えているコーポレート・ガバナンスに沿ったものであり、結果として、米国を中心とした主要国のコーポレート・ガバナンスと同じ方向を向いている。

したがって、上場企業のコーポレート・ガバナンスに関する最近の動きは、国際標準への収斂の動きともみることができる。

3.形式・実質の論議

最近、コード対応の各社の動きについて、形式的な対応にとどまり実質を伴わないという意見をよく目にする。また、コードのすべての原則を実施する選択が多いことや、説明(エクスプレイン)を選択する原則や企業が少ないことへの不満も目にする。

しかし、上記のように、コード対応を含むコーポレート・ガバナンスにおける現在の動きは、コーポレート・ガバナンスに関する国際標準への収斂という側面が強く、発行会社自身が企業価値の向上につながると確信しているというのは、必ずしも正確ではない。

わが国企業の実情をみても、今まで経験のない新しい取り組みのすべてについて直ちに機能させることは現実的とは思えない。また、コードにおいて重要な職責を期待されている社外取締役自身も、その役割について戸惑いや誤解が多い。

まずは形式からであっても、コードがベストプラクティスとする新しい仕組みや考え方を導入してみて、その運用を通じて、咀嚼して身にあった実質にしていくことは、決して不合理ではない。

4.5年後の展望

今後もわが国のコーポレート・ガバナンスの展開は、いろいろと紆余曲折を経るだろう。しかし、コーポレート・ガバナンスに関する現在の動きを、国際標準への収斂の動きと整理すると、中長期的なわが国企業のコーポレート・ガバナンスの変化については、ある程度の想像はつく。

米国を代表する大手企業の経営者の団体であるビジネス・ラウンドテーブルは、コーポレート・ガバナンスのスタンダードとなる原則を作成し公表している。最近も今年8月に改訂されているが、この米国の経営者団体が作成する原則の内容は、わが国のコードの方向性と同じである。

正解があるともいえないコーポレート・ガバナンスの分野において、経営者は難しい舵取りが求められている。

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