Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年2月16日 No.3304  トランプ政権の安全保障政策、通商政策を聞く -日米研究インスティテュート(USJI)との懇談会を開催/アメリカ委員会

植木教授(左から3人目)と寺田教授(同2人目)

経団連のアメリカ委員会(石原邦夫委員長、村瀬治男委員長)は1月30日、東京・大手町の経団連会館で、日本の9大学により共同運営されている米国NPO団体である日米研究インスティテュート(USJI)との懇談会を開催した。同メンバーの植木千可子早稲田大学アジア太平洋研究科教授、寺田貴同志社大学法学部教授からトランプ政権下における安全保障政策、通商政策についてそれぞれ説明を聞いた。説明の概要は次のとおり。

■ トランプ政権の安全保障(植木教授)

トランプ政権に限らず、米国では長期的に内向きの傾向が進んでいる。トランプ政権には安全保障に関する大戦略はなく、米国第一主義のもと、軍事力・経済力を背景に、安全保障政策を展開することが予想される。安全保障政策を担う幹部には軍出身者が多く、軍事安全保障に詳しいシビリアンが少ないことから、長期的な視点で政策・戦略を描き実行することが難しくなりかねない。アジア戦略についても、TPP離脱からみて取れるように、アジア・太平洋地域における枠組みの構築への関心は薄い。リバランス政策を転換する可能性が高いが、それに代わる軍事・外交・経済を組み合わせた包括的な戦略の策定には時間がかかるだろう。

これらの政策が現実のものとなった場合、世界が不安定になるおそれがある。加えて、有事の際に米軍介入が遅れた場合、戦況悪化をもたらすだけでなく、米国内の不満も増大し、一層孤立主義的な外交・安全保障を取らざるを得ず、結果的に世界における米国の影響力がさらに低下するという悪循環が生じかねない。

日本としては日米同盟を基軸としつつ、その一方で情報収集、情報分析能力の向上や必要な防衛装備の充実に努め、米国不在の場合の地域戦略も検討していくことが求められる。

■ トランプ政権の通商政策とアジア太平洋地域統合の行方(寺田教授)

トランプ政権の通商政策は、(1)保護主義(対米貿易黒字国への課税)(2)二国間主義と一方的主義(米国主導の貿易管理)(3)偏向主義(製造業従事者の利益最優先)――を特徴とする。こうした主義からTPP離脱を決定したが、これはトランプ政権の目的には沿わない。

まず成長著しいアジア市場で米国企業は他国の企業に競争面で劣後する。米国がアジアで締結する二国間FTAがシンガポール、韓国、豪州のみである一方、日中豪はFTAネットワークを張りめぐらしており、米企業は差別的扱いを受ける。次に二国間FTAは多国間に比して経済効果が小さく、新たな締結にも3、4年を要すなど時間もかかる。また、TPP参加を考慮する必要がない中国は国営企業など経済改革を遅らせ、鉄鋼分野等での不公平貿易を継続させかねない。

こうしたなか、アジア太平洋地域統合の行方として、次の4つのプランが想定し得よう。

1.プランA
12カ国でTPP協定を現状発効。トランプ大統領の意向から可能性は低いが、国務、国防長官など政権にはTPP支持者も存在する。
2.プランAプラス
原産地比率やバイオ医薬品データ保護期間の延長、為替操作条項など、米国議会の意向に沿って協定の一部を改訂し発効。
3.プランB
米国抜きの11カ国でTPPを発効し、同時に日米同盟強化のための日米二国間FTA交渉を開始。
4.プランC
TPPとRCEPをリンケージする。TPPメンバーのカナダ、メキシコ、チリ、ペルーをRCEPに加えて協定を締結、米国への圧力を形成。

【国際経済本部】