Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年3月2日 No.3306  国際会計基準審議会(IASB)の鶯地理事との懇談会を開催 -金融・資本市場委員会企業会計部会

経団連は2月8日、東京・大手町の経団連会館で金融・資本市場委員会企業会計部会(野崎邦夫部会長)を開催し、国際会計基準審議会(IASB)の鶯地隆継理事から、最近の国際会計基準の動向について説明を聞くとともに、意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 最近の国際会計基準の動向

2015年のアジェンダ協議で、IASBが取り組むべき課題について広く意見を聞いたところ、多くの投資家が財務諸表のわかりやすさの改善を望んでいることがわかった。そこで、今後5年間のIASBの優先課題を財務諸表におけるコミュニケーションの改善(Better Communication)とし、財務業績報告書(損益計算書)等の財務諸表の構成の見直しや開示原則の開発を検討する。

具体的には、まず基本財務諸表の構成の見直しでは(IASBスタッフの検討案の段階であるが)、IFRS(国際会計基準)の原則主義が作成者による多様な財務指標の開示を招き企業間の比較可能性が損なわれている問題等に対処する目的で、記載例を新たに示しながら主として、財務業績報告書とキャッシュ・フロー計算書の標準化を図っていく。例えば、財務業績報告書では、純損益や当期包括利益以外の段階利益(営業利益やEBIT)の表示義務付けや、そのほかの包括利益(OCI)の表示のわかりやすさの改善等を検討。キャッシュ・フロー計算書では、営業活動によるキャッシュ・フローを計算する出発点となる利益(例=税引前利益、税引後利益)のばらつきをなくすこと等を検討する。

次に、開示原則の開発では、単に開示のボリュームを減らすだけでなく、「何のためにこの開示をするのか」を作成者が理解し適切な判断ができるよう開示の目的を明確化することを含め、すべてのIFRS基準を通して適用される原則を開発する予定である。

上記を含め、IASBの今後5年間の作業計画は、(1)リサーチ・プロジェクト(2)基準設定プロジェクト(3)基準等の維持管理――に大別される。(1)は、やみくもに基準設定を行うのではなく、まずはリサーチを行い問題の所在と解決可能性を明らかにすることを目的とする作業。(2)では、保険契約プロジェクトを2017年中に仕上げIFRS17号として公表する予定であるほか、概念フレームワーク・プロジェクトも、部分的見直しを行いつつ、残存課題をリサーチ・プロジェクトに移して議論する予定である。(3)には適用後レビューを含み、のれんの償却の是非の議論も適用後レビューの結果として議論している。

<意見交換>

続く意見交換では、まず経団連事務局から、会員企業に実施したのれんの会計処理に関するアンケート結果を紹介し、日本基準適用企業では全回答企業が、IFRS適用企業(適用予定を含む)でも回答企業の8割以上が、(減損に加え)のれんを償却する会計処理を支持していることを説明した。鶯地理事からは、のれん償却の再導入は日本以外の国においては現状からの大幅な変更になるので、現状に深刻な問題があることを証明しない限り簡単には受け止めてもらえないこと、減損のみの会計処理、減損に加えて償却も行う会計処理のどちらが投資家とのBetter Communicationにとって望ましいかという観点からも議論を行うことが重要であること、今年5月にIFRS財団評議員会が東京で開催され、ハンス・フーガーホーストIASB議長ほか関係者が多数来日するので、その時期が日本としての意見発信の重要なタイミングになるとの指摘があった。

このほか、出席者からは、「純損益および当期包括利益以外の段階利益の表示義務付けを行うことはIFRSの原則主義に反するのではないか」等の意見が出され、鶯地理事からは「確かに原則主義から飛躍しているかもしれないが、現状のまま(純損益・当期包括利益以外の)段階利益を放置していると、企業間の比較可能性が損なわれ、また、IFRSタクソノミの展開を通じた将来的な財務情報等の流通を考えると、基準設定主体として、何らかのルールを打ち出す必要があるのではないか」との見解が示された。

【経済基盤本部】