Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年4月6日 No.3311  21世紀政策研究所主催セミナー「2017年の国際情勢を展望する」第3回を開催 -EU情勢について

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は3月21日、連続セミナー「2017年の国際情勢を展望する」の第3回を開催、今回はEU情勢を取り上げた。

2017年の欧州は、英国のEUからの離脱交渉の本格化、主要国における総選挙や大統領選挙の実施、これらと欧州経済との関係など、さまざまな動きが予想される。そこで、同研究所の英国とEUに関する研究会の須網隆夫研究主幹(早稲田大学教授)、福田耕治研究委員(早稲田大学教授)、伊藤さゆり研究委員(ニッセイ基礎研究所上席研究員)に加え、渡邊啓貴東京外国語大学教授、森井裕一東京大学教授、水島治郎千葉大学教授を招いて、政治と経済の面から17年の欧州情勢を展望するうえで重要なポイントを解説するとともに、パネルディスカッションを行った。

■ 欧州におけるポピュリズムの台頭

冒頭、須網研究主幹は、これまでEUはさまざまな危機を乗り越えて統合を進めてきたが、今回は、あらためて本当の危機を感じていると述べた。

一方で伊藤委員が、経済面については、政治面とは異なりEU全体では改善が進み、デフレの懸念も解消していると分析。ただし、高い失業率や不良債権の問題も残っており、政治の動向が一時的に経済や金融に影響をもたらす可能性があると指摘した。

福田委員は、欧州におけるポピュリズム台頭の背景にはグローバル化の弊害があり、特に貧富の格差が大きい英国においてEU離脱という顕著な結果へとつながったと説明した。

■ フランス、ドイツ、オランダの状況

渡邊教授は従来、フランスの大統領選挙は保守と左派の争いが一般的であったが、今回は中道左派と極右、さらに政治経験の浅い候補者同士の対決という、特殊な状況が生じていると指摘。極右候補のルペン氏が勝つ見込みは低いが、大統領選後の国民議会選挙の結果にも注目すべきだとした。

森井教授は、ドイツは他国と比べてポピュリズムの台頭は顕著ではなく、シュルツ前欧州議会議長がメルケル現首相の対立軸となったことによって、むしろ既存の2大政党への票の集約が進んでいると分析。両陣営の政策には大きな違いはなく、フランスで極右政権が誕生するような事態にならなければ、政策の振り幅は大きくないと述べた。

水島教授は、EUの原加盟国で寛容かつリベラルなオランダで、排外的な極右政党が台頭した背景には自由を重視する価値観があり、それらが例えば、官僚化したEUやイスラム圏に対する反発として表れているとの見方を示した。

■ ポピュリズムの台頭は進むか

渡邊教授は、フランスではこれまで極右勢力が政権を取ることがないように制度変更をしてきた歴史もあり、また、極右内部での分裂もあり、勢力拡大は一時的なものにとどまる可能性を指摘。森井教授は、ドイツでは制度と政治文化の両面において過去の反省から小規模政党の影響が抑えられていると説明した。

さらに、水島教授は、既存政党に対する反発は続くため、今後もポピュリズム政党が出ては消えるといった状況が続くとした。

■ 今後のEUの変化

福田委員は今後、EUが進む方向として、加盟国の意思と能力に応じた多速度・多段階の欧州が、また、行き過ぎを是正した賢いグローバル化が模索されるだろうと分析。同様に、森井教授、渡邊教授、水島教授からも、各国に主権がある社会政策や分配までには踏み込まず、あくまでも市場統合を中心に、統合のスピードを抑えるようなかたちで、ドイツや原加盟国を軸に、いわば「アラカルトのEU」が形成される可能性が指摘された。

須網研究主幹は、上記のようにEUが変化していくのであれば、英国はEUから離脱する必要はそもそもなかったかもしれないが、英国の離脱がこうした議論を惹起した面もあると説明した。

21世紀政策研究所では、今後も英国とEUの離脱交渉の進展にあわせて、引き続きセミナー等を通じて情報発信を行っていく予定である。

【21世紀政策研究所】