Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年4月13日 No.3312  21世紀政策研究所セミナー「米国のエネルギー環境戦略の最新情勢」を開催 -ワシントンでの調査をふまえて

報告する有馬研究主幹(東京)

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は、3月27日に東京・大手町の経団連会館で、また4月6日には大阪市内で経済広報センターとの共催で、セミナー「米国のエネルギー環境戦略の最新情勢―ワシントンでの調査をふまえて」を開催した。

「パリ協定のキャンセル」を公言してきたトランプ大統領が、エネルギー開発の促進や環境関連規制の大幅な見直しを掲げていることから、同研究所ではその動向を注視している。

こうしたなか3月上旬に、同研究所の有馬純研究主幹(東京大学公共政策大学院教授)がワシントンでエネルギー環境分野の政権関係者等へのインタビュー調査を実施。これを踏まえ、同セミナーでは、トランプ政権のエネルギー温暖化政策、温暖化防止の国際的取り組みへの影響、わが国にとっての意味等について、有馬研究主幹から報告を聞いた。報告の概要は次のとおり。

■ トランプ政権のエネルギー温暖化政策

トランプ政権のエネルギー政策の中核は、国内エネルギー生産の拡大、エネルギーコストの低下、米国のエネルギー自給の確立である。一方、温暖化防止に対しては冷淡である。大統領就任直後に、オバマ政権が差し止めていた2つのパイプラインの建設を推進する大統領覚書に署名したことは、環境よりもエネルギー生産・エネルギーインフラを重視する考え方を如実に示したものである。そして、環境保護局(EPA)長官、エネルギー長官等関連閣僚に気候変動懐疑派とされる人物を任用し、3月の大統領予算提案では気候変動、クリーンエネルギー関連予算に大なたが振るわれた。

今後、温暖化対策に関する大統領令によって、クリーンパワープラン(火力発電所のCO2排出規制)の見直し・撤廃等を進めていくだろう。

■ パリ協定=残留か離脱か

政権発足後、トランプ大統領はパリ協定について旗幟を鮮明にしていない。バノン首席戦略官、プルイットEPA長官等がパリ協定からの離脱を主張する一方、ティラーソン国務長官、イヴァンカ氏、クシュナー大統領上級顧問は残留を主張し、政権内で意見対立があるとみられている。そのなかで、今後のパリ協定への対応としては、次の3つのシナリオが考えられる。

<シナリオ1>
国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)そのものから離脱し、パリ協定とあわせ1年で離脱する。
<シナリオ2>
UNFCCCには残留するものの、大統領令によるパリ協定離脱、あるいは協定の上院への送付と否決により、協定上の手続きに則って4年かけて離脱する。
<シナリオ3>
UNFCCC、パリ協定ともに残留するが、オバマ政権の2025年目標を撤回・下方修正する(あるいは単に無視する)。

■ 温暖化防止の国際的取り組みへの影響

仮に米国が離脱してもパリ協定体制が崩壊することにはならないが、各国がエネルギーコストを引き上げて、より野心的な目標を掲げることは、エネルギーコストの低下を図るトランプ政権との関係で難しくなる。トランプ政権が、温暖化防止という国際的取り組みに冷や水効果となる可能性は大である。

■ わが国にとっての意味、わが国の対応

米国のエネルギー生産の拡大によりLNG輸出が増大すれば、日本のLNG調達の多角化、エネルギー安全保障上のメリットになる。トランプ政権が関心を持つクリーンコールテクノロジー、原子力分野での日米協力の可能性も十分にある。米国のパリ協定に対するポジションのいかんにかかわらず、エネルギー分野での日米協力を積極的に追求すべきである。

また、トランプ政権のエネルギー温暖化政策の方向性は、わが国の国内温暖化対策の議論にも影響を与える。米国の温暖化防止目標の撤回・見直しは、わが国の2030年中期目標、2050年長期目標・長期戦略の前提条件の変更となる。また、環境省が長期戦略の柱と考えている炭素税については、米国はいかなるかたちでも導入しないとしている。

最大の貿易相手国の米国がエネルギーコストの低下を図るなか、わが国では国際競争力に十分留意した議論が必要となってくる。

大阪でのセミナーの様子

【21世紀政策研究所】