Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年5月25日 No.3316  提言「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」を公表 -LGBTへの対応に関する企業の取り組みの方向性や具体例を提示

経団連(榊原定征会長)は5月16日、提言「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」を公表した。

人口減少が進むわが国において、イノベーションを通じて社会全体の生産性向上を図っていくためには、あらゆる人々がさまざまな分野で活躍し、その能力を最大限発揮できる「ダイバーシティ・インクルージョン社会」を実現していくことが重要となる。そのため経団連ではこれまで、女性の活躍推進、男性を含めた働き方改革、若者や高齢者の活躍支援、高度外国人材の活用、バリアフリー社会の実現等、多くの課題についての取り組みを進めてきた。

今般、見えないマイノリティーともいわれるLGBT(性的マイノリティー)への対応が急務となっていることから、各企業における適切な理解・知識の共有と、その認識・受容に向けた取り組みを進めるべく、経済界として初となる提言を取りまとめた。

1.ダイバーシティ・インクルージョンの重要性

提言の冒頭では、ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現が重要となる背景として、経済社会における3つの革命的変化((1)Society 5.0の到来 (2)グローバリゼーションの深化 (3)人生100年時代の到来)を指摘した。そうしたなかで、わが国が持続的な経済成長を実現するには、多様な人材の能力を引き出し、経済社会全体の生産性を向上させることが不可欠であると強調した。

2.ダイバーシティ・インクルージョンについての基本的考え方

あらゆる人材を組織に受け入れる「ダイバーシティ」と、そうした人材が最大限能力を発揮できる包摂、「インクルージョン」を実現することによって、企業活力の向上につながるという基本的考え方を示している。

また、ダイバーシティ・インクルージョンの実現は、すべての従業員が自己実現に向けて精力的に働くことのできる環境を生み、従業員一人ひとりのQOL(生活の質)の向上にもつながるとした。

3.LGBTに関する動向と取り組みの方向性

「LGBTとは何か」を説明するとともに、日本人の7.6%がLGBTに該当するという実態調査を紹介したうえで、国内外におけるさまざまな取り組みを紹介している。また、2014年にオリンピック憲章に性的指向・性自認に基づく差別の禁止が盛り込まれたこと、欧米諸国では取り組みが進んでおり、法律のみならず、特に米国では連邦最高裁判所による判決等で明確に差別が禁止されている現状を指摘。日本でもすでに自民党による基本的考え方の策定、超党派による議員連盟の発足や、行政、自治体、NPO等による取り組みが徐々に進んでいることを紹介している。

こうした動きを踏まえ、企業が取り組みを進めるうえで考えられる5つの視点として、(1)幅広いプールからの人材獲得と退職の抑制(2)働きやすい社内環境の整備による生産性の向上(3)自社のブランド価値向上(4)法的リスク回避と社員の人権保護(5)ビジネスの拡大――を例示。そのうえで、具体的な取り組み例として、社内規定への明記、人事制度の見直し、社内セミナーの開催、相談窓口の設置など8項目を示した。

さらに、全会員企業を対象に実施したアンケートでは、回答企業(約230社)の9割以上がLGBTへの取り組みの必要性を認識していることや、4分の3以上の企業がすでに何らかの取り組みを実施もしくは検討していることがわかった。提言の最後には、企業がすでに実施している取り組み事例の一覧を企業名とともに掲載しており、さまざまな企業がこの課題に真剣に対応していることが見て取れる。

同提言を受けて、今後より多くの企業が自社の状況に応じた取り組みを進めていくことを期待したい。

【政治・社会本部】