Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年6月1日 No.3317  国民投票以降のトルコの政治と外交等について聞く -日本トルコ経済委員会

トルコでは、大統領権限の強化を目指す憲法改正の是非を問う国民投票が4月16日に実施され、賛成票が過半数を占める結果となった。他方、昨年7月のクーデター未遂事件後に発令されている非常事態宣言があらためて延長されるなど、トルコの国内情勢は引き続き予断を許さない。

そこで、経団連の日本トルコ経済委員会(釡和明委員長、山西健一郎委員長)は5月17日、日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所の今井宏平研究員から、国民投票以降のトルコの政治と外交について説明を聞き、意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。

■ 新憲法下での実権的大統領制

クーデター未遂事件以降、エルドアン大統領の支持率が高まっていくなか、国民投票が行われ、賛成票51.4%を得て、憲法を改正することが決定した。改正後、エルドアン大統領は、行政権や議会解散権、非常事態宣言の権限等、これまで以上に強大な権限を有することとなる。三権分立による権力の抑制よりも、大統領に権限を集中させ、外部勢力の政治への介入を抑制することが念頭に置かれており、2019年11月の大統領・議会同時選挙を経て、新憲法のもとでの大統領制が始動する。

■ トルコの治安状況

トルコにおけるテロは、「イスラム国(IS)」とクルド人による「クルディスタン解放の鷹」に大別される。国民投票前後に大規模なテロを抑え込めたことは、治安維持の観点からは大きな成果といえるが、テロの脅威が根本的に解決されたわけではなく、特にショッピングモール等を単独で狙うテロには引き続き警戒が必要である。

■ 周辺国・地域との外交関係

トルコは05年から欧州連合(EU)加盟交渉を行っているが、国民投票における勝利宣言で、エルドアン大統領が死刑の復活も国民投票にかけると発言したことに対し、EU首脳は強く反発している。ただし、シリアなど周辺からの難民を受け入れているトルコは、難民問題でEUに対して有利な立場にあるため、死刑の復活がない限り、一定の関係が維持される可能性が高い。

他方、トルコは隣国シリアにおいて、3つの基本的な目標を掲げている。第1にアサド政権の退陣、第2にISの掃討、第3にトルコ政府に敵対するクルド系武装勢力の排除である。

しかしながら、IS掃討を最優先課題とする米国がクルド系武装勢力を支援するなど、トルコの思惑どおりには進んでいないのが現状である。

いずれにせよ、エルドアン大統領が憲法改正によって、国内で絶大な権力を握る可能性が高まるなか、治安の維持と外交問題が解決に直結しないことに留意する必要があろう。

【国際経済本部】