Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年6月8日 No.3318  「『ビジネスと人権』のグローバルな展開と課題」聞く -企業行動・CSR委員会企画部会

白石氏

経団連の企業行動・CSR委員会企画部会(小口正範部会長、森川典子部会長)は5月19日、都内で国連難民高等弁務官事務所、国連人権高等弁務官事務所で活躍したアジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)の白石理会長から、「『ビジネスと人権』のグローバルな展開と課題」について講演を聞くとともに意見交換した。

■ 最近のCSRの動向

CSR(企業の社会的責任)は、社会・環境・経済の統合による持続可能な企業活動を意味しており、近年、企業のCSRへの取り組みに対する社会的な期待が高まっている。

例えば、2015年6月のG7サミットの首脳宣言には、企業活動において「国際的に認識された労働、社会及び環境の基準、原則及びコミットメントを遵守」し「責任ある世界的なサプライチェーンを利用して持続的な経済発展を促進」することが盛り込まれている。

サプライチェーン(調達先の企業)やバリューチェーン(企業活動に関係するすべての企業)に関する国際的な基準・原則のなかで人権」に焦点を当てたものには国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(11年)がある。

また、より包括的な分野を取り扱ったものとしては、グローバル化の負の影響を是正し「社会的に持続可能なグローバル化」の実現を図るため、15年の国連総会において全会一致で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」がある。

■ 国際基準の自主的な履行か、法的な規制か

SDGsは、民間セクターに対しては、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求めている。SDGsというビジョン・行動計画を実践するうえで、「ビジネスと人権に関する指導原則」は、人権に関するグローバルな基準として企業の貢献が期待されているSDGsにおける企業の行動を方向づけるものである。

企業の事業活動が人権や環境に対して深刻な害を及ぼしている事例は少なくない。それを受けて、近年、イギリスでの現代奴隷法や米国での貿易円滑化および権利行使に関する法律、カリフォルニア州サプライチェーン透明法など法制化が進んでおり、法的拘束力を持つ国際条約を制定する動きもある。このような状況において、ビジネスと人権に関する指導原則に基づき、自主的・積極的に取り組むことは、人権に対する法的規制への対処手段としても活用することにもなる。

■ 企業が人権への尊重責任を果たすために

企業が適切に人権への尊重責任を果たすためには、まず経営トップのコミットメントが不可欠である。それを踏まえ、自社に加えサプライチェーン、バリューチェーンに対して「人権デューディリジェンス」(人権リスクの測定、人権への負の影響を特定・評価し、対処すること)を実施することが重要である。また、CSRの推進部局を強化するとともに、国際的な人権の基準を周知する取り組みも効果的である。さらに、企業の人権尊重責任は現場の状況で判断されるため、政府や民間団体と連携を図っていくことでより実践的な取り組みが進むことが期待される。

◇◇◇

意見交換では、人権に関する国際基準の周知方法や社内研修を行う際のポイントについて質問があり、日本では人権問題を差別の問題として扱っているが、それだけではなく、働くうえで発生するさまざまな問題を指すことから、人権問題を自分にも関わる問題としてとらえ直すことが重要であるとの回答があった。

【教育・CSR本部】