Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年7月6日 No.3322  ワシントン・リポート<1> -古くて新しい日米貿易問題を気鋭のジャパノロジストが分析

経団連米国事務所はワシントンDCを拠点に、日米経済関係の強化に向け、米国の政治経済情勢に関する情報収集、日本経済の現状や日本企業の活動に関する情報発信、米国の議会、行政府、シンクタンク、さらには各州の関係者などとのネットワーク構築に取り組んでいる。本欄ではその活動をシリーズで紹介していく。

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日米間で通商摩擦が激しかった時代には、ワシントンの代表的なシンクタンクに、いわゆるジャパノロジスト(日本専門家)がいて、時に批判的に、時に客観的に、日米通商問題を論じていた。日米摩擦が収まりをみせるなか、中国経済が力を増し米中通商摩擦が注目されるようになり、米韓自由貿易協定を契機に韓国の米国に対する働きかけも強まった。その結果、ケント・カルダーSAISライシャワーセンター所長が著書「ワシントンの中のアジア」で指摘したように、ワシントンにおける日本のプレゼンスは相対的に低下し、ジャパノロジストの言動が、かつてのような脚光を浴びることも少なくなった。

2015年の経団連米国事務所の再開は、ワシントンにおける日本経済界のプレゼンスの復活を目指すものであり、ジャパノロジストとの協力も重要な活動テーマと考えている。

そうしたなか、ジャパノロジストの旗手と目されるミレア・ソリス・ブルッキングス研究所シニアフェローが、「Dilemmas of a Trading Nation」を著し、6月26日に出版記念セミナーが開催された。当日は、同研究所のリチャード・ブッシュ・東アジア政策研究センター所長、ソリス・シニアフェロー、ならびにウェンディ・カトラー・アジアソサエティ政策研究所ワシントン事務所長によるパネル・ディスカッションも行われた。

トランプ大統領のもと、TPP離脱、日米FTA、バイアメリカン、ハイヤーアメリカンなどが話題となっており、通商摩擦の再燃を懸念する声さえある。ワシントンのシンクタンクで、TPPの行方、NAFTA見直しなどについて議論をすると、TPPについては地政学的意味も含め評価する声が多く、NAFTAの見直しが企業のビジネス戦略に与える影響を懸念する意見が多い。問題は、そうした声を、いかにしてホワイトハウスの政策決定者に届け理解を得るかであり、米国事務所としてもさまざまな方策を検討している。

グローバリゼーションや自由貿易の負の側面が強調されている現在の米国において、通商政策と国内構造改革の関係などを踏まえ、通商交渉の難しさを丁寧に調べ上げた同著は、さまざまな政治的な発言に惑わされることなく通商政策のあり方を冷静に考えるうえで、多くの示唆を与えてくれるであろう。

(米国事務所長 山越厚志)