Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年7月27日 No.3325  ワシントン・リポート<4> -アメリカの社会現象を見直す動き

トランプ大統領誕生の背景に、ラストベルト地域にみられるような現状に対する怒りと不安が指摘されることが多い。しかし、これはむしろ表面的な現象であって、より深いところで起きているアメリカの社会、経済の構造的な変化にこそ目を向けるべきだとの指摘もある。

7月12日、AEI(American Enterprise Institute)の会合で、上下両院合同経済委員会の副委員長を務めるマイク・リー上院議員(共和党、ユタ州)が、自ら唱える「ソーシャル・キャピタル・プロジェクト」の一環として副委員長スタッフが作成した「What we do together: The State of Associational Life in America」の内容を説明した。

リー上院議員

このリポートによれば、大都市の中間層の住民の比率は1970年の65%から2010年初頭には40%に低下した。他方、貧困層の住民は19%から30%に増え、富裕層の住民も17%から30%に増えた。明らかに貧富の格差が広がり、米国社会を支えてきた中間層が細っている。

また、1970年代には、成人の98%が何らかの宗教に基づき育ったが、今日では、特定の宗教を持たない成人が、20%前後に上っている。米国社会を支える宗教心も弱っている。

さらに、1970年には米国家庭の56%に1人ないし複数の子どもがいたが、その率は昨年42%に減っている。その一方で、シングル家庭で、ないし親なしに育つ子どもの比率が、15%から31%に増えている。米国社会を支える伝統的家庭観も崩れている。

こうしたなか、民主主義体制のもとでの国民の判断を信頼できると考えるアメリカ人の比率が、70年代半ばの83%から昨年56%に低下している。米国社会を支える民主主義への信奉も揺らいでいる。

ここに紹介した現象のそれぞれが、経済のグローバル化、競争の激化、選択の自由による生活の多様化、民主主義のもとでの表現の自由などを背景としており、この流れを止めることは容易ではない。このリポートの結論は、コミュニティー志向、家庭観の復活を通じて、安心、信頼を取り戻すことが重要と訴えるにとどまっているが、そのためにも、フェデラリズム(連邦主義)に基づく地方分権やローカルレベルの政策決定がますます重要になっているとリー上院議員は主張している。

AEIは、保守系シンクタンクで経済合理性を追求しているとみられているが、そこで社会現象も含めた議論がなされていることは、問題の深刻さとともにシンクタンクの奥行きの深さを示している。

(米国事務所長 山越厚志)