Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年8月3日 No.3326  ワシントン・リポート<5> -アジア太平洋地域におけるアメリカのリーダーシップの刷新

トランプ大統領が就任直後にTPPからの離脱を表明したことは、米国のアジア太平洋地域へのコミットメントが弱まる懸念を生んだ。その一方で、南シナ海における中国の行動や核実験、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮などの動きが、アジア太平洋地域におけるアメリカのリーダーシップへの期待を高めている。

ガードナー上院議員

そうしたなか、コロラド州ユマ出身のコリー・ガードナー上院外交委員会東アジア・太平洋・国際サイバーセキュリティー政策小委員会委員長が、7月19日に開催されたCSIS(戦略国際問題研究所)のセミナーで、「アジア太平洋地域におけるアメリカのリーダーシップの刷新」と題する基調講演を行った。

ガードナー委員長はまず、トランプ政権発足後半年の外交政策のなかで、マティス国防長官が最初の訪問先に同盟国の日本と韓国を選んだこと、ペンス副大統領も「アジア・ルネッサンス・ツアー」と称して、日本、韓国、オーストラリア、インドネシア訪問を成功させたこと、さらには、トランプ大統領自身がフィリピンでの米ASEANサミットと東アジアサミット、ベトナムでのAPECサミットへの参加を発表したことを、アジア太平洋重視と評価した。そのうえで、トランプ政権のプライオリティーと議会の政策強化イニシアティブを論じた。

第1に、朝鮮半島の核危機を挙げ、北朝鮮に対する超党派の失敗を超党派の成功に変えるため、経済、外交、さらには軍事の手法を駆使して北朝鮮を抑え、同盟国を守るべきであると主張した。

第2に、中国のみが、北朝鮮の現政権を締め上げる外交的、経済的交渉力を持っているにもかかわらず、その努力は十分ではないと指摘。中国は、北朝鮮との貿易を増やす一方で、THAAD(ミサイル迎撃システム)に関し韓国に経済制裁を課したことに言及するとともに、東シナ海および南シナ海における中国の行動は国際法に反し、紛争リスクを高めるものであり、米国のより強い対応を必要としていると述べた。

第3に、東南アジアにおけるイスラム過激派の勢力拡大について、すでに60のグループがISISに忠誠を示しているとの懸念を示し、トランプ政権も議会も、早急に軍事力を再構築し、防衛力を強化する必要があると訴えた。

そのうえで、トランプ政権は、今こそ議会と協力しつつ、アジア太平洋地域の危険な状況に対処するための政策を打ち立てるべきであると指摘。そのために、アジア・ルネッサンス・イニシアティブ法(ARIA)の成立を目指しているとして、4年の選挙サイクルを超え、40年にわたり、世界で最も重要な地域にアメリカのリーダーシップを確立させるべきであると締めくくった。

ちなみに、同セミナーは「第7回CSIS南シナ海会議」というもので、米中はもとより、フィリピン、ベトナム、台湾、シンガポール、インドなどの代表が参加していた。その基調講演で中国の覇権主義を厳しく論じたガードナー委員長は、まさにアメリカのリーダーシップ刷新の旗手であると感じた。

(米国事務所長 山越厚志)