Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年8月31日 No.3328  「非正規社員をめぐる労働市場の動向と今後の課題」聞く -東京大学大学院経済学研究科の川口教授から/経済財政委員会経済政策部会

経団連の経済財政委員会経済政策部会(橋本法知部会長)は7月18日、東京・大手町の経団連会館で東京大学大学院経済学研究科の川口大司教授から、非正規社員をめぐる労働市場の動向と今後の課題について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 平均賃金の伸び悩みの背景

平均賃金は、一般労働者とパートタイム労働者の雇用者全体に占める構成比率に応じて、それぞれの賃金を加重平均したものである。消費者物価指数を用いて実質化した1時間当たりの平均賃金は、2012年以降伸び悩んでいる。

その背景として、一般労働者に比べ賃金水準の低いパートタイム労働者の構成比率が高まっていることがあり、パートタイム労働者の賃金が上昇しても、一般労働者の賃金が横ばいで推移していることが考えられる。

■ 人口動態と産業構造の変化が就業に与えた影響

急激な少子高齢化を迎えるなか、2000年以降の15年間で就業者数の減少は約300万人にとどまり、生産年齢人口の約1000万人の減少と比べて限定的である。

また、産業構造の変化を受けて、男性、女性ともに製造業の就業者数は減少する一方、高齢化を受けて医療・福祉の就業者数は増加している。

なお、わが国の女性の就業率は、他の先進国と比較しても決して低くはない。ただし、勤務先での呼称を基に非正規社員を定義し、その年齢階層別の推移をみると、1990年から2010年にかけて、30代後半以降の女性の半数以上が非正社員となっている。

■ 依然として存在するわが国の平均賃金の男女格差

こうした状況のなかで課題となるのは、1時間当たりの男女の賃金格差である。

わが国の女性の能力自体は決して低くない。OECD加盟国24カ国・地域が参加した「国際成人力調査」のなかで、読解力について、わが国は男女ともに1位となった。他方、仕事における読解力の利用について、女性の偏差値は男性よりも低く、英米を下回る結果となった。

この結果が示唆するところは、わが国の女性は、高い能力を持ちながら、十分に活用されていないということである。

根幹にあるのは、男性は仕事、女性は家庭という役割分担に関する社会規範であり、長期雇用による人材育成等を特色とした日本型雇用慣行と密接に結びついてきた。従来の社会規範のもとでは、女性の就業が進展すれば、家事の負担までが女性に重くのしかかる。このため、女性は家庭のための時間の確保を優先し、能力を十分発揮できない非正規社員となることを選択している可能性がある。

■ 今後の労働市場の展望と求められる施策

日本型雇用慣行のもと、正社員と位置づけられない非正規社員は、安定的な収入を確保しがたく、消費水準も相対的に低下する。

他方、経済社会の変化に企業が柔軟に対応していくうえで、正社員のあり方についても再考を迫られている。正社員は1人当たりのコストが高く、固定費としての側面もあるためである。

今後、AIの普及やグローバル化の進展に伴う生産性の向上により、労働時間の短縮が見込まれるなか、正社員と非正規社員とを区分する日本型雇用慣行の維持は難しくなるのではないか。

目指すべきは、短時間労働の推進等を通じて、スムーズに時間調整を行うことができる雇用社会である。同一労働同一賃金の実現や、技能蓄積機会の充実をはじめとした取り組みを進める必要がある。加えて、女性の就業率向上と育児・介護サービスの充実を通じて、社会的分業の促進を図ることが重要である。

【経済政策本部】