Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年10月19日 No.3335  ワシントン・リポート<14> -ラファイエット公園に吹く秋風

ラファイエット公園から全米商工会議所ビルを望む

米国最大の経済団体といわれる全米商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)は、ラファイエット公園を挟んでホワイトハウスを眺められる絶好の場所に位置している。10月10日、全米商工会議所の主導のもと、300以上に上る全米各地の商工会議所が連名で、NAFTAの現代化を支持する書簡をトランプ大統領宛てに送った。支持書簡という形式は採っているものの、トランプ大統領が進めるNAFTA再交渉に関し、改悪ましてや離脱を阻止することが目的であり、その趣旨は、「警鐘を鳴らすべき時」というドナヒュー全米商工会議所理事長の強い言葉に表れている。

この書簡で訴えられているように、NAFTAのもと、カナダとメキシコは米国の主要輸出先として1400万人の雇用を支えている。三国間との貿易額は年間1.2兆ドルに上り、カナダとメキシコの輸入の半分以上は“made-in-the-USA”となっている。また、カナダ、メキシコへの農産物輸出は、1993年の89億ドルから2016年には380億ドルに増えている。さらに、米国のサービス輸出先ともなっており、財とサービスを合わせれば、両国に対し米国は119億ドルの黒字を昨年は記録している。NAFTA再交渉では、こうしたNAFTA効果を阻害しない“do-no-harm”であるべきだとして、発効後23年経った現在に合ったかたちにすることを求めている。

全米商工会議所の懸念表明に対し、ホワイトハウスではUSTRのスポークス・ウーマンが、全米商工会議所を「根強いワシントン・ロビイストと業界団体」と称し、トランプ大統領が進める「問題の一掃」に抵抗していると述べたと伝えられている。

これに呼応するように、米国最大の労働組合である米労働総同盟・産別会議(AFL―CIO)のトップは、「全米商工会議所の反応は、企業トップたちがNAFTAの現状からいかに多くの利益を得ているかを示す」と述べ、トランプ陣営を「労働者を支持し、われわれのアイデアに耳を傾けている」と称賛したと報道されている。その結果、皮肉なことに、共和党の大統領を労働組合が支持し、経済界と対峙しているような図式になっている。

一部メディアでは、こうした状況を「経済界の大統領離れ」と揶揄している。6月にトランプ大統領がパリ協定からの離脱を発表した時には、トランプ政権に人材を輩出してきたゴールドマン・サックスのトップをはじめとする財界人から大統領の決定を批判する声が上がり、「戦略政策フォーラム」(大統領の諮問会議)からメンバーが離脱する動きも起きた。さらに、8月のシャーロッツビル事件に対する大統領の言動をめぐり、経済界が批判を強め、諮問会議から辞任するメンバーが続出すると、諮問会議自体が解散されるに至った。

ラファイエット公園は、木々が生い茂り、真夏でも木陰で休める憩いの場所となっている。オバマケア、税制改革、さらには国際情勢など、米国が直面する課題が山積するなか、車の両輪ともいえる政界と経済界の協力は必須であり、両者を分かつラファイエット公園に秋風が吹き荒れるよう状況にならないことを願ってやまない。

(米国事務所長 山越厚志)