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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月2日 No.3337 ドイツ連邦議会選挙の結果とメルケル政権の今後 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/東京大学教授 森井裕一

9月24日に実施されたドイツ連邦議会選挙の結果、12年にわたって政権の座にあるメルケル首相の続投がほぼ確実となった。しかし、これまでのような安定した政権基盤は失われる可能性が高い。実際に政権が発足するまでには政党間の連立交渉と政策合意文書の作成が必要である。このため、第4期メルケル政権の発足は早くても年末、場合によっては2018年初めになるとみられる。それまでの間は、現在の大連立政権の内閣が職務を遂行するので混乱が起きることはないが、ドイツ政治にも不確定要素が大きくなってきた。

■ 2大国民政党の衰退とAfDの躍進

選挙結果のポイントは2点挙げられよう。1つ目は、メルケル首相を支えてきた2つの国民政党、キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が大きく得票率を減らしたことである。大連立政権を支えてきた2つの国民政党の得票率は、合計しても約53%にしかならない。国民政党の衰退は欧州の趨勢であるとはいえ、ドイツにも波及してきた。

2つ目の特徴は、右翼ポピュリスト政党「ドイツの選択肢(AfD)」が躍進したことである。4年前の選挙では「5%阻止条項」をわずかに超えることができず1議席も獲得できなかったが、今回の選挙では12.6%を獲得し、CDU/CSU、SPDに次いで議会内で3番目に大きな会派となった。AfDが議席を獲得することは予想されていたが、メルケル首相を支える与党から政権批判票がAfDに移るなど、予想外に躍進した。特に旧東ドイツ地域ではAfDの得票率は20%を大きく超えた。

■ ポピュリズムの影響が顕在化

AfDは、13年の設立時には反ユーロを旗印に掲げる政党であったが、党内抗争を経て経済的ナショナリズムを掲げていた人々が離党し、15年夏以降はナショナリスト政党の色彩を強くしてきた。同時期に難民危機が起きたことに乗じてAfDは支持を拡大した。なかには戦後ドイツで重視されてきた過去への反省を否定する者もおり、多くの問題発言がみられた。しかし、そのような問題発言や党内の勢力争いにもかかわらず、国政レベルの選挙で大幅に支持を拡大したことは、ドイツ政治にとっても看過できない事態である。

とはいえ、AfDは他の政党から完全に孤立させられているので、その排他的な諸政策がドイツの立法や政府の政策に影響を与えると考える必要はない。しかし、好景気が続き失業率が低く、難民の流入は抑制され、世論調査をみても多くの市民が現在の経済状況に非常に満足しているにもかかわらず、現在の政治への不満や将来への不安感を背景として、ドイツ社会もポピュリズムの影響を受け始めていることには留意が必要である。

■ 「ジャマイカ連立」の行方

SPDが歴史的大敗により大連立離脱を決めたため、メルケル首相が政権を継続するためには自民党(FDP)と緑の党と連立を目指すことになる。連立に参加する党のシンボルカラーの組み合わせがジャマイカの国旗と同じであることから「ジャマイカ連立」と呼ばれる。

規制緩和と市場を重視するFDPと環境政策などで規制強化を訴える緑の党の政策には対立的要素も多く、難民移民政策でも合意形成は容易ではない。仮に政権合意ができれば多角主義、自由貿易などへのドイツの寄与は変わることなく期待できる。それでも、ドイツ経済のみならずEUの行方も左右するメルケル首相の内政の舵取りはこれまで以上に難しいものとなるであろう。

【21世紀政策研究所】

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