Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月2日 No.3337  ワシントン・リポート<16> -テキサス港湾首脳に現場の声を聞く

先日、ある下院議員事務所から突然、電話が入った。最近訪日し経団連での懇談会に出席した下院議員が、選挙区の港湾管理委員会首脳のワシントンDC訪問に際し、米国事務所を訪ねることを勧めたとの話だった。キャピトル・ヒル対応が地方の現場につながった。

これを受けて10月26日、テキサス州34選挙区選出のヴェラ下院議員のチーフ・オブ・スタッフに伴われ、同州ブラウンズビル港湾管理委員会のウッド委員長、カンピラノ理事長(CEO)一行が当事務所を訪問した。ヴェラ下院議員はキルマー下院議員(ワシントン州選出)とともに、9月に外務省のプログラムで訪日し、同月20日、経団連での昼食懇談会(座長=石原邦夫アメリカ委員長)に参加している。

カンピラノ理事長から開口一番、「ブラウンズビルはメキシコとの国境にある最南端の港」と言われピンとこなかったが、地図を広げると、確かにテキサス州の南のとがった場所に位置している。テキサス州への日本企業の関心が高まっていることに加えて、メキシコとのマキラドーラ(保税加工制度)とツインプラントの活用、パナマ運河の拡充によるメキシコ湾航路の発展などを熱く語り、日本企業のさらなる進出に強い期待を示した。

折しもNAFTA再交渉が注目されているところであり、現場の受け止め方を尋ねると、カンピラノ理事長は、テキサス州は米国のなかでも特にメキシコとの経済統合が進んでおり、NAFTAを見直し、現代に合うかたちにすることは賛成だが、経済統合を壊すような改正は望まず、ましてや離脱は受け入れられないとのスタンスだった。「まさにDO NO HARM(改悪阻止)だ」、と語気を強めた。

加えて、TPPへのスタンスを尋ねると、労働組合の懸念はあろうが、TPPでアジア太平洋の貿易が推進されることはテキサス州にとっても好ましく、ブラウンズビル港にとっても海運物流の促進は望ましいとの見解だった。労働組合の懸念という言葉が気になったので掘り下げて聞くと、グローバリゼーションのなかで工場閉鎖や失業に直面するケースも出ており深刻な問題だと思うが、技術進歩による合理化、効率化、あるいは国際競争力に起因する場合が多いのではないかとのコメントだった。ヴェラ下院議員が民主党議員であることを考えれば、チーフ・オブ・スタッフの前では精いっぱいの発言と思えた。

トランプ大統領は、ラストベルトに象徴される、見逃されがちだった現実に光を当てた。しかし、その一方で、ブラウンズビル港湾管理委員会のように、グローバリゼーションのもと、国際競争が激化するなかで、必死に生き残り発展していこうとする取り組みは、日々、全米各地で起きている。そうした動きや現場の声にもっと光が当たり、新しいうねりとなって米国政治を動かす日が来ることを期待せずにいられない。

(米国事務所長 山越厚志)