Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月9日 No.3338  「インフラこそが経済を成長させる」 -大石土木学会会長・国土政策研究所所長が講演/社会基盤強化委員会

大石氏

経団連は10月19日、都内で社会基盤強化委員会(山内隆司委員長、川合正矩委員長)を開催し、大石久和土木学会会長・国土政策研究所所長から、インフラが経済成長に与える影響力について講演を聞くとともに意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ 日本の変曲点「1995年」

日本はこの20年、財政再建至上主義のもとにあり、世界のなかで日本だけが経済成長できていない状況である。1995年が変曲点となった。名目GDPの世界シェアについては、日本は95年の約18%をピークに最近では約6%に低落したようにシェアを大きく下げている。生産年齢人口も95年の8700万人をピークに下がり続けている。その背景には95年に日本経済が戦後初の本格的なデフレに陥り、財政危機宣言を出して歳出削減を行ってきたことがある。

その大きな犠牲となったのが、インフラ整備であった。公共事業費の推移について、96年を基準にすると、先進国が2倍、3倍と伸ばしてきたのに、日本だけがマイナス、しかも半減以下になっている。GDPがまったく伸びなかったのもそこに起因すると考える。

■ インフラという言葉、生産性向上

インフラという言葉は、社会を支える基礎構造を意味する。公共事業はインフラストックを整備することである。国民の暮らしに安全をもたらし、経済成長をもたらす。その認識が日本にはなく、「公共事業」という用語ばかりが使われる。先進国の首脳のだれもがインフラ整備の重要性を説くのに、日本では「インフラ」という用語を使えない。例えば、道路の整備でデリバリーできる件数が1日10件から15件に増える、そうした環境整備で労働生産性を向上させることが日本の課題である。

■ インフラの整備による経済成長

インフラ整備による効果を紹介する。圏央道が整備されたことで、その沿線に新たな工業地帯が生まれ、製造品の出荷額は5年で1.4倍と、生産誘発効果が出た。新たな雇用や民間企業の投資も生み、経済成長につながっている。観光エリアの拡大の観点でも、羽田・成田から2時間以内で到着可能な観光施設は1.4倍になり、インバウンド観光を促進している。

■ インフラ整備の現状と各国との比較

日本とドイツの交通網を比較すると、日本の方が人口も多く面積も広いにもかかわらず、高速道路も鉄道もドイツの方がはるかに整備されている。ドイツでは、高速道路は4車線以上が基本で、推奨速度は時速130キロメートルである一方、日本では高速道路の3割が、正面衝突の可能性もあり70キロメートル制限の2車線道路であるなど、違いは明らかだ。

日本の高速道路利用率はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツのどこよりも低く16%。日本の自動車のカタログ燃費は世界最高レベルだが、実走行燃費はその半分で、イギリス、フランス、ドイツに大きく離されている。自動車で1時間で移動できる距離は日本は51キロメートル、ドイツは90キロメートル。どちらの労働生産性が高いかは一目瞭然である。

日本では、防災分野を含めて、公共投資を減らし続けてきた。その結果、物流環境・人流環境を整えることができず、内需を減らしてデフレを促進し、この厳しい経済状況をつくり出してしまった。「失われた10年・20年」ではなく、「私たちが失ってきた10年・20年」なのだ。

大切なことは、いかに生産性を向上させるかである。そのためにやるべきことはたくさん残っている。現世代は、将来世代が活躍できる環境を整備してきたのかどうかが問われている。

【政治・社会本部】