Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年11月23日 No.3340  重要労働判例説明会を開催

経団連の労働法規委員会(鵜浦博夫委員長)は11月9日、東京・大手町の経団連会館で重要労働判例説明会を開催し、経営法曹会議所属弁護士の安倍嘉一氏(森・濱田松本法律事務所)から、「日本郵便(東京)事件」(東京地裁平成29年9月14日判決)の概要について説明を聞き、意見交換を行った。会員企業から約100名が参加した。説明の概要は次のとおり。

■ 事件の概要

原告らは、被告(日本郵便)との間で時給制契約社員として労働契約を締結し、郵便局で郵便外務事務や窓口業務に従事していたが、年末年始勤務手当や住居手当が支給されない、また、夏期冬期休暇や病気休暇が付与されないなど正社員と労働条件が異なっていた。そこで、原告らはこれらの労働条件の差異は「有期契約労働者の労働条件が、正社員の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容および職務内容・配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理であってはならない」と定めた労働契約法第20条に違反するとし、被告を提訴した。

■ 判決

(1)職務内容および職務内容・配置の変更の範囲について

正社員(旧一般職)は管理者への昇任が期待され、配置についても局間異動や支社への異動が行われている。また、正社員(新一般職)については、標準的な業務に従事し、転居を伴わない範囲での異動が行われている。これらに対し、時給制契約社員は、特定の定型業務に従事し、異動する場合は本人の同意に基づく。したがって、職務内容および職務内容・配置の変更の範囲について、時給制契約社員は、正社員(旧一般職)との間に「大きな相違」があり、正社員(新一般職)とも「一定の相違」がある。

(2)各労働条件の不合理性について

以上を考慮して、各労働条件の不合理性を検証する。

  1. (1) 年末年始勤務手当
    正社員に対しては、定年まで長期にわたり年末年始を家族と過ごすことができないことへの配慮が必要であるが、正社員に支給される年末年始勤務手当が時給制契約社員にまったく支給されないことに合理的な理由があるとはいえず違法。

  2. (2) 住居手当
    転居を伴う転勤がないという点で、時給制契約社員は新一般職と同じであるにもかかわらず、新一般職に支給される住居手当が時給制契約社員にまったく支給されないことに合理的な理由があるとはいえず違法。

  3. (3) 夏期冬期休暇
    正社員に付与される夏期冬期休暇を時給制契約社員にまったく付与しない合理的な理由は見当たらず違法。

  4. (4) 病気休暇
    勤務期間が長期になった場合でも、時給制契約社員に有給の病気休暇が付与されないことに合理的な理由はなく違法。

  5. (5) その他の労働条件の相違
    外務業務手当、早出勤務手当、祝日給、夏期年末手当、夜間特別勤務手当、郵便外務・内務業務精通手当については、何らかのかたちで時給制契約社員にも支給されているので不合理性は認められない。

(3)主な結論

上記(1)年末年始勤務手当(2)住居手当(3)夏期冬期休暇(4)病気休暇について、労働契約法第20条違反を認定。なお、(1)(2)については、損害の性質上、その額を立証することが極めて困難であるため、民事訴訟法第248条に基づき、裁判所が損害額を認定し、被告は、(1)について正社員の8割相当額、(2)について正社員の6割相当額を原告に支払う。(3)(4)については、原告が損害を主張していないので、支払いはなし。

※ 労働契約法第20条は「不合理であってはならない」と定めており、上記(1)~(4)について「合理的な理由がない」ことをもって違法性を認定している点は問題なしとはしない。

【労働法制本部】