Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年2月22日 No.3351  パーソナルデータ利用の現状と課題 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(日本情報経済社会推進協会常務理事) 坂下哲也

■ データ利用への関心の高まり

情報社会の次に続く新しい経済社会を「Society 5.0」(超スマート社会)と呼ぶ。サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させ、経済的発展と社会的課題の解決を両立しつつ、活力ある社会の創出を目指すものである。その実現に向けた重要な要素の1つがデータ利用である。わが国では、10年ぶりに個人情報保護法が改正された。パーソナルデータの活用を促す施策として匿名加工情報(特定の個人を識別することができないように個人情報を加工した情報であり、また元々の個人情報を復元することができないようにしたもの)が新たに定義された。匿名加工情報の取り扱いにあたっては「匿名加工情報取扱事業者」であることの明示が必要であるが、現状200社を超える事業者が明示をしており(2018年1月現在)、関心の高さがうかがえる。

さて、私たち人間は何かの限界を超えるために発明を繰り返してきた。体力の限界を超えるために蒸気機関を、伝達の限界を超えるために電話を、生産性の限界を超えるために工作機械を創り出してきた。現在は、スマートフォンをはじめとするIT機器を個々人が持ち、日々大量のデータが生成される状況のなかで、サービス等が展開されている。年齢・性別というデータだけでなく、生活環境等の他のデータなども組み合わされることで、適切なサービスを利用者へ届けるための対応はますます複雑なものになっている。その複雑性の限界を乗り越えるためにデータ利用が進められているのだろう。

■ 企業でのデータ利用事例

Worldsensing社のBitcarrier は、無線電波のキャプチャーを行い、屋内外の人流・交通流を生成している(https://www.worldsensing.com/product/bitcarrier/OpenNewWindow)。このデータは、公共交通の調整やイベント時の警備体制編成の活用など公共目的にも利用されている。同データをデジタルサイネージのビジネスに利用し、動的に広告枠を募集することなどが議論されている。

また、ヘルスケア分野においては、日々の活動のみならず、食事等の生活状況のデータも可視化し、健康長寿に活かすことが検討されている。これによって、生活習慣病を予防するだけでなく、病気になった場合の投薬量を適正にすることで廃棄を削減する等の効果が期待されている。

前者は複雑な人の流れのデータ利用、後者は個々人の差異の複雑さに対応するデータ利用の例である。

■ データ利用に向けた今後の課題

データ利用が促進される一方で、解決しなければならない課題もある。前記のヘルスケアサービスの場合、A社の計測器よりB社の方が精度がよい等の理由により、サービスを乗り換えたいと思った場合に、それまでA社に蓄積されたデータは使えず、ゼロからデータを蓄積し直すことになってしまう。これに対応する1つの方法として「データ・ポータビリティ」という考え方がある。これは「個人が事業者に提供した個人情報を、本人が扱いやすい電子的形式で受け取り、他の事業者に移すこと」をいう。EUではGDPR(一般データ保護規則)に明文化されたが、IoT等が生活に定着し、また対面書類の撤廃などオンライン完結社会が進展していくなかで、わが国でも検討が必要になるだろう。

また、ウエアラブル端末や家電などがネットワークでつながるなかで、セキュリティーに関する課題も多く指摘されている。例えばセンサーからデータを収集する際に、そのセンサー自体は正しいセンサーなのか、またオンライン上のその人は確かに本人か、さらには、それを提供する企業などの主体は本当に存在するのか等を担保する仕組み(トラストを確保する仕組み)が必要になるのだろう。

私たちは、サービス等を提供する相手を信用・信頼・信託という段階を調整し、利便性等を享受している。データ利用を進めるなかで、利用者と向き合う段階を考えていく時代になったのではないか。

【21世紀政策研究所】

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