Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年3月8日 No.3353  21世紀政策研究所セミナー「2018年の国際情勢を展望する(第3回 中国)」を開催 -中国のイノベーションの実力とその持続可能性

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は2月15日、シリーズセミナー「2018年の国際情勢を展望する」の最終回として、「中国のイノベーションの実力とその持続可能性」を開催した。

近年、中国のベンチャー企業が独自の技術やビジネスモデルを武器に世界的な大企業へと急成長する例が多くみられるようになり、中国の民間企業やそのイノベーションの動向が今後さらに注目を集めることが予想される。同セミナーでは、神戸大学大学院経済学研究科の梶谷懐教授が「中国の民間企業や個人起業家によるイノベーションの持続可能性」について、日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所の木村公一朗副主任研究員が「深圳を中心としたベンチャー企業群による劇的なイノベーションの現状」について講演を行った。

■ 「中国のベンチャー企業をめぐる最新情勢」

木村氏

最初に、木村氏から、現在中国で生まれているイノベーションの源泉は、コンセプトのはっきりしない製品を考案したり、ビジネスリソースを持たない個人起業家やベンチャー企業であっても、多様なビジネスを展開できたりできる環境そのものであると説明があった。さまざまなレベルの技術や社会変化の組み合わせ・補完関係が起業を誘発するメカニズムを形成し、中国のベンチャー企業群の足腰の強さにつながっているとの見解を示した。

また、昨年11月に行った現地調査を踏まえた深圳のベンチャー企業の最新動向を紹介し、同業他社の増加による市場創出と、製品カテゴリー内での競争激化による圧力が、さらなる差別化の積み重ねを引き起こし、新しい技術体系を生む一方、模倣品の増加などのデメリットも内包していると指摘した。また、エコシステム内の連鎖反応と競争の激化が、「海外にあって中国にないもの」から「海外にも中国にもないもの」を生む原動力へつながっていると解説した。

■ 「中国におけるイノベーションの持続可能性~歴史的制度からの視点」

梶谷氏

次に、梶谷氏は、深圳においていわゆる「山寨(さんさい)品」と呼ばれるコピー(パクリ)製品が製造されていた歴史から振り返り、現在のエコシステム成立の要因として、そもそもコピーが可能な状況にあったからこそ知的財産に関する挑戦的な取り組みが生まれた側面があると指摘した。いわゆる「パクリ」行為が横行しているがゆえに、それをビジネスとして成り立たせるシステムが自生的にでき上がっていき、そのシステムが同時に製品開発の固定費を引き下げ、イノベーションやメーカー系のスタートアップを促進するという意図せざる機能を持つに至ったと説明した。

また、電動自転車、一般ドライバーが配車サービスに参入している例などを挙げ、中国においては先駆的な企業が政府の規制を無視した行動を取ることで、なし崩し的に制度を変化させる現象がしばしば発生する点を紹介した。新興国では、近代化の過程で政府(国家)が明確な意図を持って制度設計を行い、個人や民間企業がその裏をかくかたちで意図せざる秩序が形成されることが多く、その点を理解している政府の側も法制度の精緻化をほどほどのところで止めようとする傾向があると述べた。そして、「強力な知的財産権」不在のもとで生まれるイノベーションは、権威主義的な政府のもとで人々のエネルギーの発露として持続するのではないかとの見方を示した。

最後に行われた登壇者2名による意見交換では、(1)英語でコミュニケーションができ、最初から世界市場を目指す中国のスタートアップ企業も誕生している(2)中国の個人起業家やベンチャー企業との付き合い方を考えるうえで、日本企業としてではなく個人同士の人的ネットワークを構築することが重要である(3)企業の垣根を越えた協業を考えるべきである――といった点が挙げられた。

【21世紀政策研究所】