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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年3月8日 No.3353 トランプ政権のこの1年と今後 <1>米国の内政 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 久保文明

■ トランプ大統領に対する米国内での評価

トランプ大統領については真正面から対立する2つの評価が存在する。

1つはイデオロギーに基づくものであり、それと強く関連して人種・ジェンダーに関する大統領の言動に由来する。トランプ大統領の政策は地球温暖化問題に対応しようとするパリ協定離脱、企業優遇策との批判もある法人税減税などにみられるように、極めて産業界寄りである。また、就任当初目指した中東諸国からの入国制限策もイスラム教徒に対して差別的であり、人種問題に関しても白人の差別主義者に対し過度に批判を抑制しているようにみえる。

これに真っ向から対立する見方も存在する。そもそもアメリカ経済は現在長期拡大中で絶好調であり、失業率も4.1%と低く、完全雇用状態にある。連邦最高裁判所判事としてニール・ゴーサッチ氏を早々かつ成功裏に指名したのみならず、多数の保守派下級審判事も任命して、司法部を長期にわたり保守派の牙城とすることに成功した。さらに、多くの規制緩和と大減税という成果をあげた。

ギャラップ社の世論調査によると、トランプ大統領の支持率は37%であるが(2月25日)、民主党支持者に限るとその数字は7%となる。それに対して共和党支持者は80%が大統領を支持している(無所属の人々の支持率は32%)。まさにアメリカにおけるイデオロギーと政党による分断状況の象徴かつその反映である。ただし、オバマ前大統領の支持率についても、民主党が80%以上の支持率で支え、共和党の支持率は一桁という状況であったので、このような分断状況そのものについては、トランプ大統領だけが特異な現象を提示しているわけではない。

ただし、トランプ大統領をめぐっては、既存の保守・リベラルの軸と異なる対立軸も存在する。それはワシントンあるいはサンフランシスコなどに住む政治・経済・文化におけるエリートと、ラストベルトや南部農村部に住む非エリートの間の対立である。一部のエリート的共和党支持層も、トランプ大統領の人種偏見を煽りかねない発言や保護貿易主義的な政策については批判的である。

■ FBIによる捜査と中間選挙

これにもう1つ、トランプ大統領特有の問題として、ロシアとの関係、あるいは司法妨害をめぐってFBIによる大統領周辺に対する捜査が進行しており、なおかつ大統領がかなり露骨にこの捜査に対して敵意を示していることである。それはしばしば公私の発言において、あるいはツイートにおいて、示されてきた。トランプ大統領については、イデオロギー、政策、さらには価値観を超えて、大統領としての適格性そのものについての疑念が抱かれていることが大きな特徴である。

FBIによる捜査の進み具合によっては、弾劾という事態がないわけではない。ただし、特に今年の中間選挙において民主党が多数党に復帰した場合、下院の過半数による弾劾決議可決はあり得ても、出席上院議員3分の2以上の賛成による大統領の有罪・解任は、極めて困難である。しかも、ここにきて、経済政策についての評価が高まるにつれ、共和党の中間選挙での支持率が上昇傾向にある。CNBCによると、ポリティコ・モーニング・コンサルト(the Politico/Morning Consult)の調査では、「共和党に投票する」が39%、「民主党に投票する」が38%と、ここ数カ月で初めて共和党支持が民主党支持を上回った(※)。中間選挙では通常、与党が、特に下院では議席を減らす傾向があるが、ここにきて共和党にとって一筋の光がみえてきたことも確かである。

今年の中間選挙、そして2020年の大統領選挙ともに、好調な経済は大統領と与党共和党に追い風となりつつも、他の大統領にはみられなかった複合的な批判および否定的見方が、どのように作用するかを注視していく必要がある。

【21世紀政策研究所】

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