Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年3月15日 No.3354  オープン・イノベーションの創出に求められる企業戦略のあり方聞く -産業競争力強化委員会企画部会

経団連は2月23日、東京・大手町の経団連会館で産業競争力強化委員会企画部会(齊藤裕部会長)を開催し、早稲田大学大学院経営管理研究科の樋原伸彦准教授から、「企業によるオープン・イノベーション戦略の成否」をテーマに講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ オープン・イノベーションの意義

企業は、社内・社外を問わず優れたインプットを取り込むことで、複数のマーケットへの製品・サービスの提供が可能となる。「オープン・イノベーション」は、研究開発から製品の提供までを社内で完結させる「クローズド・イノベーション」の対概念であり、想定外のアウトプットが生まれることも期待できる。

■ オープン・イノベーションの課題

オープン・イノベーションを推進するうえでの最大の課題は、社外のどことつながる(投資する)かである。その際、対象企業の「既存事業からの距離」と「補完性あるいは代替性」を考慮する必要がある。

まず、対象企業の事業とのシナジーが期待される領域(既存事業からの距離が近く、かつ補完的な領域)では、社内での技術開発に固執する傾向が強くなるため、社外の技術に投資するという意思決定が行われにくくなるという問題が生じる(Not Invented Hereシンドローム)。特に、トップダウンとはいえない大企業の組織形態のもとではその傾向が強い。

また、既存事業からの距離が近く、かつ代替的な領域では、「イノベーションのジレンマ(安定した大企業は、破壊的技術に投資するのは合理的でないと判断してしまうこと)」に陥る可能性が高い。その原因として、(1)破壊的な製品は当初は利益率が低いこと(2)破壊的技術が最初に商品化されるのは新しい市場や小規模な市場であること(3)最も収益性の高い顧客は破壊的技術を利用した製品を当初は求めないこと――などが挙げられる。

さらに、既存事業からの距離が遠く、かつ中立的な領域においては、企業内に遊びの部分がない(No Slackness)ことや、規則万能や前例主義といった企業組織の官僚体質(官僚制の逆機能)に陥ることから、なかなか新しい連携が生まれにくい。

■ 課題の克服に向けた方策

こうした課題が生じる背景として、「Capabilities(組織の能力)」の不足が考えられる。リソースとしてのCapabilitiesをスタートアップから戦略的に調達するとともに、それらを社内制度と効率的に融合することにより、競争力の確保につなげるべきである。

その際、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)による投資が有力な手段となる。日本企業の意思決定プロセスのなかでは、オープン・イノベーションはなかなか進まないため、「出島戦略」として親会社から切り離したCVCをつくり投資を行うことが有効である。対象企業をいきなりM&Aをするよりも、CVC投資から始める方がシーズ探索に効果的であり、また伝統的なR&D活動の補完としてCVC投資を使うことで、状況の変化により迅速に対応できるようになる。

【産業政策本部】