Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年3月22日 No.3355  実験的金融政策の成果と限界 -富士通総研の早川エグゼクティブ・フェローが講演/経済財政委員会

経団連の経済財政委員会(柄澤康喜委員長、永井浩二委員長)は3月5日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、富士通総研経済研究所の早川英男エグゼクティブ・フェローから、「実験的金融政策の成果と限界」と題した講演を聞くとともに意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ QQEの実験的性格

日本銀行が2013年4月に導入した量的・質的金融緩和(QQE)は、ゼロ金利下での非伝統的金融政策の効果に関する経済学界の明確なコンセンサスがなく、その意味で実験的な政策である。QQEの本質は、大胆な金融緩和によって大幅な円安を実現させるショック療法による短期決戦であった。

■ 成果と誤算

金融市場は予想どおり反応し、円安・株高が実現した結果、国民の心理も明るくなった。消費者物価は13年半ばからプラス基調で推移し、「物価の持続的な下落」という意味のデフレではなくなった。しかしリフレ派の主張と異なり、デフレ脱却が実現しても、経済成長率は高まらず、財政再建も進んでいない。

■ アベノミクス期の特徴

アベノミクス期は人手不足が深刻化したにもかかわらず、賃金がほとんど上がらなかった。経済成長率は平均1.4%と必ずしも高くなく、労働生産性の低迷を高齢者や女性を中心とする短時間労働者の増加で補っている。その結果、潜在成長率は低迷し続け、低成長でも需給ギャップはほぼ解消している。

■ 「デフレ・マインド」と日本企業

デフレ・マインドとは、物価下落が続く予想ではなく、流動性危機の経験から生まれた日本企業の防衛的・消極的な行動様式ではないかと考える。企業は、人手不足あるいは史上最高益でも賃上げや設備投資をためらっている。投資機会はあっても「日本的雇用」が要求される日本企業はリスクをとれず消極的になりがちである。

■ マイナス金利導入が転換点

当初のもくろみどおり物価が上がらず、金融緩和が行き詰まりつつあったため、一昨年初めに日銀はマイナス金利を導入した。しかし、サプライズをねらったことが裏目に出て、消費者心理の悪化や金融機関の反発を招いた。そこで同年9月、日銀は、「総括的検証」を行ったうえで、政策の軸足を量から金利に変えるイールドカーブ・コントロール(YCC)に移行した。

■ 物価至上主義のマクロ政策から転換を

足元の日本経済は好調であり、本来はマクロ政策を中立的もしくは若干引き締め気味に転換すべきタイミングである。しかし、物価が上がらないため、日銀は金融緩和の手を緩められず、YCCで長期金利も上がらないため、政府は財政赤字を気にしないという「物価至上主義」に陥っている。

追加的に金融緩和や財政出動を行う余地がないなか、現在の最大のリスクは、出口を迎える前に次の景気後退が来ることである。日銀は国債やETF(上場投資信託)の購入ペースを落とし、政府は財政健全化を進めるなど、マクロ政策の枠組み変更が必要である。

【経済政策本部】