Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年3月22日 No.3355  金融庁から会計監査の信頼性向上に向けた取り組みを聞く -金融・資本市場委員会企業会計部会

経団連は2月23日、東京・大手町の経団連会館で金融・資本市場委員会企業会計部会(野崎邦夫部会長)を開催し、金融庁総務企画局の古澤知之審議官から、企業会計審議会監査部会における「監査報告書の透明化」の検討状況を聞くとともに意見交換を行った。
概要は次のとおり。

2016年3月に取りまとめられた「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言を受け、金融庁では、昨秋から企業会計審議会監査部会において「監査報告書の透明化」の検討を進めている。

同部会では、会計監査の信頼性向上に向けた監査報告書の透明化策として、欧米において導入されている、または、導入予定の監査上の主要な事項(Key Audit Matters)、いわゆるKAMの監査報告書への記載に向けた実務的な検討を行っている。

監査報告書へのKAMの導入を検討するにあたって、わが国の監査報告書の特徴に挙げられている「監査人の意見を短文式で明瞭・簡潔に記載し、当該監査意見と区別して追記情報等を記載する現行の監査報告書の枠組み」には変更を加えない予定である。

「監査報告書の透明化」の目的は、現状の会計監査プロセスを外に見せ、会計監査の透明性を向上することにある。したがって、企業情報の開示の充実を目的としていない。具体的には、期末監査に向け、年間を通じて行われている「リスク・アプローチに基づく監査計画の策定、特検事項の洗い出し、その対応・報告」に至るまでの過程を外に見せるため、監査上の特に重要な事項であるKAMを監査報告書に記載することを検討する。

なお、現状の期末監査では、監査基準に基づく会社法と金融商品取引法の監査が一連のプロセスのなかで行われている。現在、検討しているKAMの導入の対象を金商法の監査報告書とするか、会社法の監査報告書にまで広げるかどうかは検討課題である。

監査報告書へのKAMの記載の適用時期については、監査部会で、これから議論する予定である。米国では19年6月30日以降に終了する事業年度の監査報告書から、公開企業を対象に順次適用を広げていく予定とされている一方、わが国では十分な準備期間を設ける必要があるとの声もあり、適用時期について丁寧に議論していく必要がある。

<意見交換>

意見交換では、「会社法と金商法のそれぞれの監査があるなど、わが国特有の事情があるなかで、国際的にみてKAM記載の負担がわが国だけで増えることのないよう対応してほしい」「監査プロセスをオープンにするだけなら、監査手続が大きく変わることはなく、監査報酬にもさほど影響はないはず」「対象は上場企業の有価証券報告書の連結決算に限定すべき」「KAMにより新しい事業リスクを発見できるという過剰な期待を利用者が持っており、リスクの過大評価につながることのないようにしてほしい」等の意見が出された。これに対し古澤氏は、「年間を通じた監査プロセスを前提としてKAMの記載を検討しており、四半期決算を対象とすることはまったく考えていない」「利用者にKAMの導入趣旨等を正しく理解してもらえるよう丁寧に説明していきたい」などと応じた。

最後に野崎部会長が、委員の発言を総括して、「会計監査に対する不信感を払拭するため、監査プロセスの説明が求められているのがKAMの導入目的であり、企業が開示していない事業経営上のリスクがKAMに記載されるわけではない。KAMの記載の仕方によっては、事業リスクをいたずらに高くみせてしまう可能性も否定できず、慎重に検討を進める必要がある」とあらためて強調した。

【経済基盤本部】