Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年4月5日 No.3357  「Society 5.0を実現するための名古屋大学の役割と産業界への期待」 -名古屋大学の松尾総長から聞く/教育問題委員会

説明する松尾総長

経団連は3月19日、東京・大手町の経団連会館で教育問題委員会(渡邉光一郎委員長、岡本毅委員長)を開催した。来賓の松尾清一名古屋大学総長から、Society 5.0を実現するための名古屋大学の役割と産業界への期待について説明を受け、意見交換を行った後、昨年12月から今年2月にかけて経団連が実施した「高等教育に関するアンケート」の結果が報告された。松尾総長の説明の概要は次のとおり。

■ “本格的な”産学連携への挑戦

各国の科学・技術水準を示す指標の1つである「論文数」を国際比較すると、近年、アメリカや中国が飛躍的に伸びているのに対し、日本は頭打ちの状況にある。なかでも企業発の論文数が減少している。論文数は企業における新規プロダクト・イノベーションの実現割合と相関するが、日本は先進国のなかでこれが最も低く、世界に大きく後れを取っている。

こうした現状を解決する施策の1つとして産学連携の推進が挙げられるが、名古屋大学では“本格的な”産学連携推進に向け、ここ数年さまざまな改革を行っている。例えば、運営管理環境の整備の一環として2013年に「学術研究・産学官連携推進本部」を創設し、大学が基礎研究から社会実装まで一貫してマネジメントできる体制を構築した。また、企業の資金や人材を呼び込むために新たなオープンイノベーション拠点を大学内に構築したり、産学連携に積極的に取り組む方向に意識を変えてもらうべく、研究者に対しインセンティブを与えたりしている。こうした改革を推進した結果、15年度には、11年度と比べて国からの受託研究受入金額は1.5倍に、企業との共同研究受入金額は2倍にそれぞれ増大しており、成果が着実に上がっている。

■ Society 5.0の実現を目指した産学連携プロジェクト

名古屋大学は、省エネルギーイノベーションの実現を目指すGaN(窒化ガリウム)研究において、世界初の産学共創の枠組みである「GaN研究コンソーシアム」(注)を発足させた。同コンソーシアムには、基礎研究と社会実装のギャップ、いわゆる死の谷(デスバレー)を埋め、技術の事業化を加速させるべく、多くの大学・企業等が参画している。

ここでは、協調共同研究と個別共同研究を分けたプロジェクト設定により、研究成果物や情報の共有範囲を明確に区別しているほか、知的財産取扱方針の明確化により研究者・参画機関の研究に対するモチベーションを向上させている。また、研究成果については一部に非公開の部分を確保しつつ、オープン化して技術の普及を加速させ、エネルギー伝送ネットワークを実現する社会基盤の確立を目指している。

■ 未来に向けた地方創生の核となる大学へ

名古屋を含む東海地域は、20世紀から現在に至るまで、経済的に最も成功した地域の1つといわれているが、技術革新が急速に進むなか、この地域が将来にわたり繁栄していくためには、地域の大学が国公私の枠を超えて連携した大学連合体となり、これを核として国、自治体、地域の産業界が連携し、東海地域版のSociety 5.0実現を目指すことが必要だと考える。そのための第一歩として、1大学1法人制度の見直しによるこの地域の国立大学による新たなマルチキャンパスシステムの樹立を構想している。東海地域を世界でも有数のTech Innovation Smart Societyとすべく、本学としても積極的に推進していきたい。

経団連からは、これまでにも大学改革をめぐりさまざまな意見や提言をもらっているが、現在の世界の状況に鑑みて日本の大学改革はまだまだ遅れている。本学の取り組みと経験を知ってもらうことで、大学改革についてともに考えてもらえればありがたい。

<意見交換>

説明後の意見交換では、「基礎研究とイノベーションを目指す研究とのバランスについてどう考えるか」との経団連側からの質問に対し、松尾総長は、「国立大学の機能分化推進により、一方で大学が本来持っている機能が失われることが危惧される。その意味でも、大学連合体の創設は、各大学が役割分担できる点で効果的である」と回答した。

(注)GaN研究コンソーシアム=省エネルギー社会の実現に資する材料として注目されているGaN(窒化ガリウム)を中心的な材料として、世界をリードする省エネルギーイノベーションの創出を目的に、15年10月1日に設立。69機関(20大学・3国立研究開発法人・46企業)が参画している(17年12月現在)

【教育・CSR本部】