Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年4月5日 No.3357  21世紀政策研究所が第126回シンポジウム開催 -「情報化によるフードチェーン農業の構築」

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は3月19日、研究プロジェクト「情報化によるフードバリューチェーンの構築」(研究主幹=大泉一貫宮城大学名誉教授)の研究成果を踏まえ、東京・大手町の経団連会館で第126回シンポジウム「情報化によるフードチェーン農業の構築」を開催した。

■ 研究報告「情報化によるフードバリューチェーンの構築」

冒頭、大泉研究主幹が研究報告を行った。まず、近年注目を集めているICT技術を活用したスマート農業は、プロダクトサイドのデータをもとに生産や経営の改善を図る技術革新であるが、農業経営システム全体の改善を伴わなければ飛躍的な農業生産性の向上には結びつかないと述べた。そこで、農作物や食品のマーケットデータに基づいてフードチェーン全体の最適化を図る新たな農業経営システムをつくり、そのなかで技術革新を実現する必要があるとした。さらにその先にある、農業に限らず社会のあらゆるデータと農業が結びつくようデザインする、データ駆動型農業という社会システム改革を伴う将来像も示した。

また、大企業がベンチャーを支援するかたちで参入していく方法が浸透し始めている現状や、農業におけるオープンイノベーションの条件整備、川上産業におけるクラスター形成の必要性についても言及した。

■ 事例報告

まず、日本電信電話の瀬戸りか氏(アグリガール001)とNTTドコモの有本香織氏(アグリガール002)が「アグリガールからIoTデザインガールへ」について報告した。NTTがさまざまなスタートアップ企業と連携することで、農業・畜産業・水産業のICT化の普及につなげている取り組みを紹介した。

次に、NKアグリ社長の三原洋一氏が「リコピン人参『こいくれない』の生産について」を報告した。三原氏は、既存の流通規格では消費者のニーズが正確にとらえられておらず、需要をくんだ商品で新しいバリューチェーンを創造することが必要だと述べた。

続いて、クボタ取締役の飯田聡氏が「KSASの取り組み、将来展望」について報告した。飯田氏は、市場で求められる作物を、求められる時期に、求められる量だけ供給するため、データを活用した精密農業をIoT技術によって実現させることの重要性を訴えた。

■ パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、大泉研究主幹をモデレーターに、瀬戸氏、有本氏、三原氏、飯田氏に加え、同研究プロジェクトの研究委員である西南学院大学教授の本間正義氏、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏、東京大学大学院教授の森川博之氏の間で活発な討議が行われた。

本間研究委員は、日本の農林水産業をただの素材提供産業としてではなく、全体で100兆円規模を目指す食品産業の一部としてとらえ、生産から消費までの一貫した流通体系をつくることで農業のマーケットインを実現することが必要だと主張した。

山下研究委員は、生物や自然を相手にする農業は工業よりも複雑な判断が必要であり、このような複雑な意思決定にこそAIやICTの利用が有効で、そのためにはオープンに利用できるビッグデータが不可欠であると訴えた。

森川研究委員は、インベンション(技術)にとどまらず、社会や顧客が本当に求めているものを提供するイノベーションでなければ民間の資金を集めることはできないとして、農業分野の情報技術もマーケティングの視点を持った技術革新が必要であると述べた。

その後、会場から質問があり、「具体的にどうしたら日本の農業を変えていけるのか」「農業関連データの収集、共有、分析、利用の効率的なあり方やその実現に向けてどのような課題があるのか」「情報化によるフードバリューチェーンの構築を今後牽引する主体はだれになるのか」といった点について議論が行われた。

シンポジウムの詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】