Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年4月5日 No.3357  「古典の学びから広がる新しい付加価値創造の可能性」 -経団連昼食講演会シリーズ<第36回>/国文学研究資料館館長 ロバート キャンベル氏

経団連事業サービス(榊原定征会長)は3月7日、東京・大手町の経団連会館で第36回昼食講演会を開催し、国文学研究資料館館長のロバート キャンベル氏から講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ 古典籍データベースの構築

明治期より前につくられ、これまで継承されてきた記録資料や書物などを総称して「古典籍」という。その分野は、日常生活の知恵といったものから、科学、産業、文学、美術、武道、兵学など広範囲に及び、世界の文化遺産ともいうべき貴重なものもある。国文学研究資料館は、国内外の日本文学・美術の研究者や資料保有機関と協力し、創設以来約50年にわたって膨大な古典籍の収集・整備に努めてきた。

2014年からは、10年かけて国文研はじめ大学・研究機関等が所蔵する30万タイトルを超える古典籍を高精細な画像に変換し、300万冊の書誌情報と合わせて「新日本古典籍総合データベース」としてストックするプロジェクトを開始した。データベースには世界中からインターネットを通じて容易にアクセスできる。

■ 古典籍をもとにした新たな文化の創造

古典籍データベースの活用による新たな文化の創造を模索する取り組みとして、17年10月から「ないじぇる芸術共創ラボ」プロジェクトを始めた。

これは、文学研究者ではない芸術家や翻訳家を資料館に招聘し、データベースを通じてあらゆるジャンルの古典籍に触れることによってまったく新しい視点の獲得を促し、それを手がかりに既存の「日本」という枠組みを超えた新たな芸術等を創成してもらおうというプロジェクトである。

いくつか成果が出始めている。例えば、芥川賞作家の川上弘美さんは、平安初期の歌物語「伊勢物語」の資料からインスピレーションを得て現代小説を執筆している。アニメーション作家の山村浩二さんは、葛飾北斎に影響を与えたとされる江戸時代の浮世絵師、鍬形蕙斎が描いた絵手本を参考にしたアニメーションを制作中である。劇作家・演出家・俳優の長塚圭史さんは、古典籍から読み取れる日本人の身体表現や、書物の装本・装丁を芝居づくりに活かすことに挑んでいる。

翻訳家を招聘し、まだ日本語の活字になっていないものを見いだし、それを日本語以外の言語に翻訳して出版してもらうことも考えている。すでに、百人一首の英訳で各種の賞を受賞しているアイルランド出身の翻訳家ピーター・マクミランさんは、たくさんの扇に書かれた和歌(『扇の草紙』)を翻訳し、文学と美術を融合した芸術として世界に発信している。さらに今後は、日本の美しい風景とそれらの作品を同時に鑑賞できるVR動画として作品化する予定である。

◇◇◇

今後、国内外でさまざまなイベントやワークショップを開き、古典籍の活用事例を紹介するとともに、参加者と一緒に新たな活用方法を考えていきたいと考えている。

ぜひ多くの方々に古典籍データベースにアクセスしていただき、古典籍を資源として活用することで新たな文化の創成に結びつけていってもらいたい。

【経団連事業サービス】

昼食講演会 講演録はこちら